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- 国:日本 - 地域:富山県高岡市(県西部、旧加賀藩領と越中国の境界域) - 気候・地形:日本海側気候。冬は積雪が多く、夏は蒸し暑い。庄川・小矢部川の氾濫原に位置する平野部。海まで約10km。 - 暮らしの基本:鋳物・漆器産業の城下町。農業は稲作が中心。富山湾の魚介と山間部の食材が流通する。昆布の消費量が全国上位圏。共働き世帯が多い。 ---
十月の午後三時過ぎ。空は低く、雲が灰色の一枚板のように張っている。 あなたは小矢部川沿いの堤防道路を自転車で走っている。アスファルトの継ぎ目が細かく振動を伝えてくる。川面は鈍く光り、対岸の田んぼは刈り取りを終えた株だけが並んでいる。わらが束ねられ、路肩に積まれている。踏むと湿った音がする。 国道から一本入った住宅街に入る。二階建てのコンクリートブロック塀が続く。塀の上に、取り残されたカキの実が三つ。 スーパーの袋を両手に下げた女性が、塀の前の自転車に荷物をくくりつけている。袋の底が濡れている。彼女が振り返る。顔に見覚えがある。先週の農産物直売所で、あなたに「これ、うちで採れたやつ」とサトイモを一袋押しつけた人だ。 「あ、あんたか。ちょうどよかった。手伝って」 何を手伝うのかよくわからないまま、あなたは自転車を押して隣についていく。 瀬尾久代、五十八歳。夫は鋳物工場に勤めている。長男は富山市内で働いていて、今は夫婦と高校生の次男の三人暮らしだと、歩きながら断片的にわかる。 玄関の引き戸を開けると、三和土にゴム長靴が二足。壁に電気のスイッチと、小さな棚。棚の上にタウンページが一冊乗っている。廊下の突き当たりが台所で、換気扇が低く回っている音がする。 「上がって上がって」 スリッパを出してもらう。フローリングではなく、廊下は塩化ビニールのシートが敷いてある。継ぎ目の部分が少し浮いている。 台所に入る。ステンレスのシンクに、大根が三本立てかけてある。皮がまだついたまま。流しの横に切り株のような木のまな板。その隣に、アルミの鍋が二つ並んでいる。一つは蓋がしてあり、もう一つは空だ。 「座っててええよ」と久代さんが言うが、テーブルの椅子は一脚に洗濯物が積まれている。あなたは立ったまま壁際にいる。 久代さんがシンクの前に立ち、大根を手に取る。包丁で皮を厚めに剥いていく。皮は長くひと続きに落ちる。まな板の上で半月切りにする。音は乾いていて、リズムが一定だ。 蓋のしてある鍋の方から、なにか柔らかい匂いがしてくる。だしのような、でも少し違う。濃い、少しねっとりした匂いだ。久代さんが蓋を少しずらす。中が見える。赤みを帯びた汁の中に、なにか白いものと、濃い色の固形物が沈んでいる。 廊下の方で玄関の引き戸が開く音。次男が帰ってきたらしい。「ただいま」の声だけして、足音が二階に上がっていく。 久代さんが切った大根を鍋に加える。蓋を戻す。ガスを中火にする。タイマーを十五分にセットする。タイマーはプラスチックのダイヤル式で、コンロの横の壁にマグネットで貼りついている。 あなたは洗濯物をずらして椅子に座る。 窓の外、庭に干してあったタオルが風で揺れている。一枚、地面に落ちる。久代さんはそれを見ていない。 十五分後、タイマーが鳴る。久代さんが蓋を開ける。湯気が天井に向かって上がる。 テーブルの上に、ご飯の茶碗、汁椀、箸、それと小さな皿に糠漬けのきゅうり。久代さんが鍋から汁椀に、白いものと濃い色の固形物を、赤みのある汁ごとよそう。 「どうぞ」 椅子を引いて、座る。 湯気が顔にかかる。表面に、脂の薄い膜が張っている。糠漬けの皿を少し脇に寄せ、箸を持つ。 ---
今日のふらりごはん

料理名

いかの煮物(いかと大根の煮物)/ 富山の家庭煮物

現地名:いかと大根の煮もの(富山では「いかの煮もん」と呼ばれることが多い)/ 日本語名:するめいかと大根の煮物


この料理について

富山湾で水揚げされるするめいかを使った、富山・高岡の家庭の定番惣菜。特別な行事食ではなく、週に一度程度食卓に上がる平日のおかずとして位置づけられる。昆布だしを使うことが多く、いかのワタ(内臓)を煮汁に溶かし込む流儀は富山県西部の家庭に広く見られる。


材料(3〜4人分)

食材分量日本での入手備考
するめいか(冷凍可)2杯(約400g)スーパー全国胴・足・ワタに分ける
大根1/3本(約300g)スーパー全国半月切り、厚さ1.5cm
昆布10cm×1枚スーパー全国だし用
300ml
大さじ3スーパー全国清酒。料理酒でも可
みりん大さじ2スーパー全国
砂糖大さじ1スーパー全国
しょうゆ大さじ3スーパー全国濃口
いかのワタ2杯分するめいかから取り出す核となる要素。省かない

アレルゲン:いか(軟体動物)、小麦(しょうゆ)、大豆(しょうゆ)


ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース英語ソース日本語ソース判定
するめいか富山レシピ複数で確認squid with daikon で同様の構成確認クックパッド・NHK等で多数◎必須
大根富山家庭料理の記述で頻出daikon ペアとして標準的同上◎必須
いかのワタを煮汁に混ぜる富山・能登の家庭レシピで明示一部英語ブログで紹介(orange sauce として)NHKきょうの料理等で確認◎必須(核)
昆布だし富山の昆布消費量の文脈で一致kelp broth として出現富山レシピで共通◎必須
酒・みりん・しょうゆ全ソース共通全ソース共通◎必須
砂糖一部ソースのみ(少量)多数で使用オプション(甘めが好みなら)
生姜一部ソースで使用一部オプション

この料理を成立させる核

  • いかのワタ(内臓)を煮汁に溶かし込む。これを省くと「いかと大根のしょうゆ煮」になり、別の料理になる。ワタが赤みを帯びた濃いコクを汁に与える
  • 大根は下茹でせず直接煮る。水分が少し残った状態で仕上げる
  • 昆布だしを使う。富山の家庭では昆布が日常的に使われており、かつお系のだしに置き換えると味の輪郭が変わる
  • いかを煮すぎない。胴は輪切りにして後から加え、全体の煮時間は15〜20分以内に収める。超えるとゴムになる

作り方

  1. 昆布だしをとる。水300mlに昆布を30分浸けてから中火にかけ、沸騰直前に昆布を取り出す。
  2. いかを処理する。胴から足とワタを引き抜く。ワタ(墨袋の隣にある橙色の内臓)は破らず取り出し、小鍋に酒大さじ1と合わせてほぐしておく。胴は幅2cmの輪切り、足は食べやすい長さに切る。
  3. 大根を切る。皮を厚めに剥いて半月切り(厚さ1.5cm)にする。
  4. 鍋に昆布だしと調味料を入れる。だし300ml、酒大さじ2、みりん大さじ2、砂糖大さじ1、しょうゆ大さじ3を合わせて中火にかける。
  5. 大根を入れて先に煮る。沸騰したら弱火にし、蓋をして10分煮る。
  6. ワタを加える。酒でほぐしたワタを鍋に加え、菜箸で汁全体に溶き混ぜる。汁が橙色に濁る。
  7. いかを加える。胴の輪切りと足を入れ、中火に戻す。蓋をして5〜8分。いかに火が通ったら火を止める。
  8. そのまま少し冷ます。粗熱がとれる間に味がしみる。食べる直前に温め直すと汁の味が安定する。

食べ方

ご飯のおかずとして、汁ごと茶碗の隣に椀で出す。翌日は冷めた状態でも食べる。大根に汁がしみこんでいる。


補足

失敗しやすいポイント

  • ワタを破いてしまうと墨が混入し、汁が黒くなる。ゆっくり引き抜くこと
  • いかを先に入れると煮すぎになる。大根が十分柔らかくなるまで大根だけで煮ること

代用提案

  • するめいか → 冷凍ヤリイカで代用可。ワタがない場合は、いかの塩辛を大さじ1加えることで近い風味になる(塩辛の場合はしょうゆを少し減らす)。ただしワタそのものとは深みが異なる
  • 昆布だし → 市販の昆布だしの素(粉末)小さじ1+水300mlで代用可。風味は弱くなるが構造は崩れない

時短バージョン 大根を電子レンジ(600W・4分)で先に加熱しておくと、鍋での煮時間を半分以下に短縮できる。

翌日の楽しみ方 冷蔵庫で一晩おいた翌日、汁を少量足して温め直す。大根が汁を全部吸っているので、温めながら崩して食べると別の食感になる。

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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