← 地図に戻る
- 国:ニュージーランド - 地域:オークランド市ワイテマタ区(Waitematā Local Board Area)。オークランド中心部およびノースショア方面の港湾周辺を含む都市部。 - 気候・地形:温帯海洋性気候。年間を通じて降雨があり、夏(12〜2月)は20〜25℃前後、冬(6〜8月)は10〜15℃前後。ワイテマタ港を囲む丘陵地形。平坦な土地は少なく、住宅地は斜面に張り付くように分布する。 - 暮らしの基本:ニュージーランド最大の都市圏。マオリ系、パケハー(ヨーロッパ系)、パシフィカ(太平洋島嶼系)、アジア系が混住する多民族都市。一戸建て住宅率が高く、郊外型の住宅地が広がる。スーパーマーケット(Countdown、Pak'nSave等)が生活の中心。ラム肉、牛肉、じゃがいも、乳製品の消費量が多い。 ---
7月。オークランドの冬。 ポンソンビー・ロードから一本入った路地に、あなたは立っている。舗装の継ぎ目からひょろりと雑草が出ている。アスファルトは雨に濡れて、街灯の光を薄く反射している。風が左の耳に当たる。海から来る風だ。匂いはない。ただ湿っている。 丘を下る坂道は、木造のフェンスと、ハードウッドの板張り外壁を持つ家が交互に並んでいる。塗料の剥げたものもある。補修中のものもある。ガレージのシャッターが半開きで、内側に黒いゴミ袋が積んである。電線がたるんで、二本の電柱の間を結んでいる。 木の板の足音がした。玄関ポーチの先に、女性が立っている。40代後半。作業着のような厚手のフリースを着ている。右手に紙袋を持っている。近所のPak'nSaveから帰ってきたところだった。彼女の名前はリア・テウィ。建設会社の事務仕事をしている。夫と十代の息子ふたりと暮らしている。 あなたが道を尋ねた。彼女は紙袋をフェンスに預けながら答えた。言葉はほぼ聞き取れた。最後の部分だけ聞き取れなかった。 「入ってきなよ、もうすぐご飯だから」と聞こえた。 玄関のドアは内開きだった。靴を脱ぐ場所は特に定められていなかった。あなたは玄関マットの横に揃えて置いた。リア・テウィは靴のまま台所に入った。 廊下は短い。両側の壁に、子どもの学校の写真と、どこかのビーチで撮られたフレームに入った写真が並んでいる。ガラスに指紋が付いている。 リビングは広くない。ソファに毛布が畳まずに置いてある。テレビが台の上にある。音はついていない。窓の外は暗い。 台所から音がしている。 鉄のフライパンが何かに当たる音。それから、液体が沸騰する音。あなたは台所の入り口に立つ。 コンロは四口。手前の二口が使われている。ひとつの鍋は深く、縁に何かが飛び散って焦げている。フタが斜めに掛かっている。もうひとつのフライパンには、たまねぎが炒められている。焦げではなく、じっくり火が通った色。茶色の濃淡。匂いがあなたの喉の奥まで来る。甘みのある、重い匂い。 リア・テウィが鍋のフタを取った。湯気が天井に向かって一直線に上がった。 台所の棚に、ウスターソースの瓶が見える。赤いラベルのトマトケチャップ。茶色いビン。ローズマリーの乾燥したもの。その隣に、白いプラスチックの容器。 冷蔵庫が鳴っている。コンプレッサーの音が床に伝わっている。 廊下の奥から足音がした。息子のひとりが台所に来て、鍋を覗いた。十六歳か十七歳に見える。「まだ?」と言った。リア・テウィが何かを言い返した。息子は笑いながら戻った。 テーブルは四人用。木製で、角が磨耗している。リア・テウィがオーブンを開けた。四角いトレーが出てきた。表面は茶色く焼けている。持ち上げると、底面で何かが揺れているのが見えた。重さがある。 テーブルに置かれた。トレーはそのままテーブルの中央に来た。 フタが取られた。湯気が顔に当たる。熱い。肉の脂と、ハーブと、何か酸のある匂いが混ざっている。表面はツヤがあり、中央が盛り上がって、ふちが少し縮んでいる。色は深い赤みがかった茶色。 塩とこしょうの小瓶が置かれた。ナイフとフォークが並んだ。白いパンが皿の端に添えられた。 リア・テウィが最初に座った。息子ふたりが椅子を引いた。夫はまだ来ていなかった。それでも全員が料理のほうを見た。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Shepherd's Pie / シェパーズパイ


この料理について

シェパーズパイは英国植民地の食文化とニュージーランドのラム・マトン牧畜業が結びついた家庭料理。オークランドを含むニュージーランド全土の家庭で、特に冬の平日夕食として作られる。「ラム肉+マッシュポテトの蓋」という構造が基本形で、残り物のローストラムで作ることも多い。


材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
ラム(またはマトン)ひき肉500gハラール系精肉店・業務スーパー・Amazon冷凍牛ひき肉で代用可(後述)
たまねぎ1個(中)スーパー全般みじん切り
にんじん1本スーパー全般5mm角切り
セロリ1本スーパー全般なければ省略可
にんにく2片スーパー全般みじん切り
トマトペースト大さじ2スーパー全般
ウスターソース大さじ1スーパー全般
チキンまたはビーフストック150mlスーパー全般顆粒コンソメ溶液でも可
小麦粉大さじ1スーパー全般とろみづけ
冷凍グリーンピース100gスーパー全般フレッシュでも可
じゃがいも700gスーパー全般メークインより男爵が向く
バター大さじ3(約40g)スーパー全般
牛乳大さじ3〜4スーパー全般温めておく
塩・こしょう適量スーパー全般
ローズマリー(乾燥)小さじ1/2スーパー・KALDIタイムでも可

アレルゲン:小麦(薄力粉)、乳製品(バター・牛乳)、セロリ(欧州基準アレルゲン)


ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(英語NZ)英語ソース(一般)日本語ソース判定
ラム/マトンひき肉◎ NZ家庭料理の文脈で強調◎ 複数ソース共通◎ NZ料理解説で言及必須(牛でも可だが風味が変わる)
マッシュポテトで蓋をする◎ 構造の定義必須(これが省かれると別料理)
たまねぎ・にんじん・グリーンピース必須(グリーンピースはNZ家庭での頻出)
ウスターソース◎ NZレシピに頻出必須(NZ家庭の定番調味料)
トマトペースト必須
ローズマリー/タイム必須(どちらか一方)
チーズをマッシュに混ぜる◎ 一部ソース○ 一部なしオプション
コーン(缶)NZ家庭ではよく使われるオプション(子ども向けアレンジ)

この料理を成立させる核

  • ラム(またはマトン)を使う:牛や豚で作ると「コテージパイ」と呼ばれ、別の料理になる。NZではラムが最も一般的。
  • マッシュポテトを上蓋として全面に敷く:横に添えるのではなく、肉の上をポテトで完全に覆ってオーブンで焼く。この「上蓋構造」がシェパーズパイを定義する。
  • オーブンで焼いて表面に焼き色をつける:コンロのみで完成させない。オーブンで焼くことで、マッシュの表面に乾いた層ができる。これが食感の核。
  • ウスターソースとトマトペーストを両方入れる:片方だけでは深みが出ない。NZおよび英国圏のレシピで一貫して両方使われている。

作り方

  1. じゃがいもを茹でる:じゃがいもを皮をむき、一口大に切って塩水から茹でる。竹串がスッと通るまで(約15〜20分)。茹で上がったら湯を切り、鍋をコンロに戻して弱火で1分乾燥させる。
  2. マッシュポテトを作る:温めたバターと牛乳を加えてマッシャーまたはフォークで潰す。なめらかになるまで混ぜる。塩・こしょうで調味。離しておく。
  3. オーブンを200℃に予熱する。
  4. 野菜を炒める:フライパンに油(分量外・少量)を中火で熱し、たまねぎをしんなりするまで5〜7分炒める。にんじん、セロリ、にんにくを加えてさらに3分炒める。
  5. ひき肉を加える:ラムひき肉を加え、強火で色が変わるまでほぐしながら炒める(3〜4分)。余分な脂が多ければスプーンで取り除く。
  6. 調味する:小麦粉を振り入れてよく混ぜる。トマトペースト、ウスターソース、ストック、ローズマリーを加える。中火で5〜7分、とろみがつくまで煮る。グリーンピースを加えて火を止める。塩・こしょうで調整。
  7. 組み立てる:深めの耐熱皿(20×30cm程度)に肉の具を平らに広げる。その上にマッシュポテトを均等に乗せ、フォークの背で表面をならす(筋目を付けると焼き色がつきやすい)。
  8. 焼く:予熱したオーブンで25〜30分。表面が黄金色になれば完成。

食べ方

テーブルに耐熱皿ごと出し、スプーンで取り分ける。ケチャップやブラウンソースを添えることもある。白いパン(スライスブレッド)を横に添えて、汁気をぬぐいながら食べる家庭も多い。


補足

失敗しやすいポイント

  • マッシュポテトが水っぽいと焼いても形が崩れる。茹でた後の水切りと鍋乾燥(工程1)が重要。
  • 肉の具のとろみが薄すぎると焼いたときに分離する。小麦粉をしっかり馴染ませてから煮ること。

代用提案

  • ラムひき肉 → 牛ひき肉:入手しやすいが、ラム特有の脂の香りは出ない。ウスターソースを気持ち多めにすると補える。
  • ラムひき肉 → 牛豚合いびき:最も風味が変わる。別料理として割り切ること。
  • バター → オリーブオイル:マッシュのコクが落ちる。乳製品不使用にしたい場合の選択肢。

時短バージョン

  • じゃがいもをレンジで加熱(600W・8〜10分)すれば茹で工程が短縮できる。食感はやや変わる。

翌日の楽しみ方

  • 翌日は冷蔵庫で固まって取り出しやすくなる。170℃のオーブンで15〜20分温め直すと、焼き色が再度つく。スライスして出すと断面が見えて食べやすい。
この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する