← 地図に戻る
- 国:日本 - 地域:佐賀県武雄市(肥前地方、旧肥前国) - 気候・地形:温暖湿潤気候。年間降水量多め。武雄市街は六角川支流沿いの低地で、周囲を緑の丘陵が囲む。冬は霜が降りる程度で積雪は少ない - 暮らしの基本:農業(米、野菜)と林業が基盤。有明海・玄界灘からの海産物が流通する。武雄温泉を中心とした観光業もあるが、市街から外れると住宅と田畑が混在する地区が続く ---
県道脇のアスファルトに、昨夜の雨水がまだ残っている。轍の溝に沿って細い流れが作られ、用水路に落ちていく。稲刈りの終わった田が左右に続く。切り株が等間隔で泥に刺さり、ところどころ藁束が縛られてそのままになっている。 あなたは小さな商店の軒先に自転車を止めた男性に声をかけられた。五十代後半、作業着の裾をゴム長靴に入れたまま、泥が跳ねた軍手を片手だけはめている。西川さん、と名乗った。隣の区画で米を作っていて、今日は息子夫婦が来るから早く帰るところだという。話しているうちに、雲が低くなり、ぽつぽつと雨が落ちてきた。軒先では防ぎきれない斜めの雨だった。西川さんが「うちで待っとけば」と言った。 農道を二百メートル入ると、スレート屋根の平屋が見えた。外壁は白かったと思われるサイディング材で、今は全体に薄くくすんでいる。玄関横に庭木が一本あり、剪定されずに伸びている。玄関前のコンクリートには水鉢が置かれ、メダカが三匹いる。 上がり框に腰をかけると、廊下の先から炒め物の音がした。油が跳ねる断続的な音。それと別に、なにか根菜を煮る鈍い匂いが廊下を伝ってくる。糊のような、澱粉質が溶けかけたような匂い。 居間は六畳と八畳が続き間になっている。続き間の境の鴨居に、ラジオがぶら下がっている。音は出ていない。八畳のほうに掘りごたつがあり、天板はガラス板を乗せた透明なもので、下のコタツ布団の柄が透けて見える。テレビは掘りごたつの正面の壁寄りに置かれ、地元ニュースが音量を絞って映っている。壁際に仏壇があり、小さなみかんが二つ供えてある。 台所から奥さんが顔を出した。同じ年頃の女性で、割烹着ではなく、フリースの上に汚れ防止のエプロンをつけている。「息子が来るけん、いっぱい作っとります」と言って、すぐ台所に戻った。 しばらくすると玄関のガラス戸ががたりと開き、三十代の男性と、同じくらいの女性、それに小学校低学年くらいの男の子が入ってきた。男の子はランドセルをまだ背負っていた。西川さんが「おお」と言っただけで、全員が当然のように座布団に座った。 台所の音が増した。包丁のリズムが速くなり、鍋蓋が一度だけ大きく鳴った。根菜の匂いに、醤油が加わった。甘辛い、煮詰まる手前の匂い。 お盆が三回運ばれた。最後に大きめの深皿が来た。ごぼう、人参、里芋、こんにゃく、油揚げが、茶褐色の煮汁に沈んでいる。表面に油の膜が薄く張り、それが揺れるたびに光が屈折する。具材の断面が丸いもの、斜め切りのもの、乱切りのものが混在している。里芋の縁が少し崩れて、煮汁が白みがかっている。 男の子が「これ好き」と言った。奥さんがお椀に取り分けながら「食べんしゃい」と答えた。 あなたの前にも器が置かれた。 ---
今日のふらりごはん

煮じゃあ

煮じゃあ / にじゃあ(佐賀県武雄地方の根菜煮)

この料理について

武雄神社の秋祭り「おくんち」に合わせて各家庭で作られてきた煮物で、祭りの時期が近づくと武雄市周辺の家庭の食卓に並ぶ。現在は季節の煮物として日常的に作られており、根菜を多めにとり、やや甘めの濃い味付けで仕上げるのが共通している。「煮じゃあ」の「じゃあ」は「煮る」を意味する肥前弁に由来するとされる。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
ごぼう1本(約150g)スーパーささがきより乱切りまたは斜め切りが一般的
人参1本(約150g)スーパー乱切り
里芋4〜5個(約200g)スーパー冷凍里芋でも可
れんこん100gスーパー厚め輪切りまたは半月切り
こんにゃく1/2枚(約150g)スーパー手でちぎると味が入りやすい
油揚げ1枚スーパー熱湯をかけて油抜きする
だし汁500mlスーパー昆布と煮干しの合わせだしが基本。顆粒だしでも可
醤油大さじ3スーパー
みりん大さじ2スーパー
砂糖大さじ1〜1.5スーパーやや甘めに仕上げる
大さじ2スーパー
少々スーパー味を見て調整
ごま油小さじ1スーパー仕上げに加えるとコクが増す(省略可)

アレルゲン:大豆(油揚げ)、ごま(ごま油使用の場合)


ソース照合メモ

食材現地語ソース(saga-nouson.jp)英語ソース日本語ソース(一般煮物)判定
ごぼう◎ 明記◎ 煮物定番必須
人参◎ 明記◎ 煮物定番必須
れんこん◎ 明記◯ 煮物でよく使用必須
里芋◯ 根菜煮物に多用必須に準じる
こんにゃく◯(一般的な煮物として)必須に準じる
油揚げ必須に準じる
醤油・みりん・砂糖◯(甘辛味)必須
昆布・煮干しだし◯(九州の煮物基本)必須

この料理を成立させる核

  • 根菜を複数種類使うこと:ごぼう・人参・れんこんの3種は外せない。この組み合わせが「煮じゃあ」の骨格
  • だしに昆布と煮干しを使うこと:九州の煮物の地盤。このだしを省くと甘辛いだけの平坦な味になる
  • 甘め・濃いめの味付け:砂糖とみりんをしっかり入れる。薄味の煮物にすると別の料理になる
  • 根菜を下茹でまたは長く煮ること:特にごぼうとれんこんは火が通るまで時間をかける。半端に硬いと「煮じゃあ」にならない

作り方

  1. ごぼうは乱切りまたは斜め切りにして水にさらす(10分)。れんこんは半月切り、人参は乱切り、里芋は皮をむいてひと口大に切る。こんにゃくは手でちぎる。油揚げは熱湯をかけて油抜きし、短冊切りにする。
  2. 鍋にごま油(使う場合)少量を熱し、ごぼうを中火で1〜2分炒める。香りが出たら人参、れんこん、こんにゃくを加えてさらに1分炒める。
  3. だし汁を加え、沸騰したらアクをすくう。酒・砂糖を加えて中火で10分煮る。
  4. 里芋と油揚げを加え、醤油・みりんを加える。落し蓋をして弱火で15〜20分、里芋に竹串がすっと入るまで煮る。
  5. 火を止める直前に塩で味を調え、仕上げにごま油(小さじ1)を回しかける(省略可)。
  6. 時間があれば一度冷まして再び温めると、味がより全体に行き渡る。

食べ方

白飯の副菜として、深めの小鉢によそって食べる。汁ごとご飯にかけて食べることも家庭では多い。翌日は汁が少し煮詰まり、味が濃くなる。

補足

  • 失敗しやすいポイント:里芋を最初から入れると煮崩れやすい。ごぼうとれんこんを先に煮てから加えること。また、だし汁が少ないと焦げつくので、様子を見て足す
  • 代用提案:れんこんが入手しにくい場合、大根(厚め輪切り)で代用できる。食感は変わるが甘辛だしとの相性は保たれる。煮干しだしがなければ昆布だしのみでも成立するが、コクがやや落ちる
  • 時短バージョン:冷凍里芋と水煮れんこんを使うと下処理時間を半分以下にできる。だしは顆粒だし(昆布+いりこ合わせタイプ)で代用可
  • 翌日の楽しみ方:余った煮じゃあをそのまま温め直す。汁が少なくなっていればだしまたは水を少量足す。煮物うどんの具として使っても合う
この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する