← 地図に戻る
- 国:日本 - 地域:千葉県 / 南房総市
三月の半ば。国道から折れた農道の路肩に、軽トラが一台停まっている。荷台に泥のついた長靴が二足、横倒しになっている。 道の両脇、菜花の黄色が肩の高さまで来ている。茎が太い。葉の表面に水滴が残っていて、朝の雨がまだ乾いていない。アスファルトの継ぎ目から雑草が出ていて、その根元だけが黒く湿っている。 直売所の前に折りたたみの台が出ていて、ダイコン、里芋、落花生の袋が並んでいる。台の足がコンクリートの段差に引っかかって斜めになっていて、落花生の袋がずり落ちそうになっている。あなたがそれを直そうとしたところで、小屋の中から人が出てきた。 「それ、大丈夫ですよ、いつもそうなってる」 六十代半ば、国岡トミ子。小屋の奥にビニールハウスが見える。エプロンの胸ポケットにボールペンが二本刺さっている。夫は午前中に畑に出ていてまだ戻らない、と言う。「せっかくだから」という言葉とともに、小屋の脇の勝手口のほうへあなたは案内される。 引き戸を開けると、上がり框に長靴と運動靴が四足。土間のコンクリートが窪んでいて、水が溜まった跡が白く乾いている。台所は板張りで、蛍光灯が一本、チェーンで天井から下がっている。冷蔵庫は白、取っ手に布がかかっている。シンクの横のステンレスのバットに、茹でた落花生が山になっている。まだ湯気が出ている。 土鍋がコンロにかかっている。蓋が少しずれていて、白い湯気がそこから出ている。音は低く、ぽこぽことした規則正しいリズム。米の香りの下に、べつの何かがある。甘くはない、でも鼻の奥に来る、塩気に近いが塩そのものではない匂い。 「今日はこれだけ」とトミ子さんが言って、蓋を外す。蓋の裏に水滴がついていて、コンロの脇の布巾に伏せて置かれる。鍋の中、白い米が見える。その下から、黒みがかった粒がいくつか見えた。 冷蔵庫から取り出された皿がふたつ、テーブルに置かれる。チェック柄のビニールクロスの上。片方には切り干しダイコンの煮物、もう片方は菜花を茹でたもの、からしが添えられている。 椅子は木製で、座面のビニールカバーが破れて、端がテープで補修してある。あなたは奥の席に座る。窓の外、電線に鳥が一羽止まった。 トミ子さんが茶碗をふたつ持ってきて、土鍋から飯を盛る。茶碗の底から黒い粒が見える。表面の白い米と、その下の粒が、盛られるたびに混ざる。湯気がまっすぐ上に立ち、あなたの顔のあたりまで来る。 落花生の香りが、はっきりわかる。生臭さはない。茹でた豆に近いが、もう少し奥行きがある。 トミ子さんが座って、箸を取った。 ---
今日のふらりごはん

料理名

落花生ご飯(らっかせいごはん)/ Peanut Rice

この料理について

南房総を含む千葉県内陸・沿岸部の家庭で、落花生の収穫期前後を中心に作られる炊き込みご飯。「落花生赤飯」と並び、地域の給食や家庭の行事にも登場するが、平日の昼食・夕食に普通に炊かれる日常食でもある。生落花生が手に入る時期(8〜10月収穫後)に作るのが本来だが、乾燥落花生・茹で落花生を使った通年バージョンも広く作られている。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
2合スーパー全般うるち米
生落花生(または乾燥落花生)100〜150g(殻なし・薄皮付き)直売所・道の駅・業務スーパー・Amazon生は8〜10月が旬。乾燥落花生は通年入手可
小さじ1〜1と1/2スーパー全般塩のみのシンプルな味付け
大さじ1スーパー全般なくても可、あれば風味が増す
通常の炊飯量(2合分)落花生の水分を考慮して気持ち少なめでも可

アレルゲン:落花生(ピーナッツ)※最主要アレルゲン。提供時は必ず明示すること。

ソース照合メモ

食材・要素現地語ソース(千葉・房総)英語ソース日本語一般ソース判定
生落花生または乾燥落花生(薄皮付き)南房総市給食レシピ・地産地消ページで確認クックパッド複数件で確認◎必須
塩のみの味付け(醤油なし)地産地消レシピ・給食レシピで確認主流はシンプル塩味◎必須(核)
一部レシピに記載ありオプションとして登場オプション
薄皮を残す現地語ソースで強調一部で言及◎必須(核)
醤油・みりんを加えるバージョン一部クックパッドレシピで確認少数派地域変形・オプション

この料理を成立させる核

  • 落花生は薄皮付きのまま使う。薄皮を剥いてしまうと香りと色が大幅に落ちる。これを省くと見た目も風味も別物になる。
  • 味付けは塩のみ。醤油や砂糖を入れると「落花生の炊き込みご飯」ではなく「なんとなくピーナッツ風味の炊き込みご飯」になる。塩だけだからこそ落花生本来の甘みと香りが前に出る。
  • 落花生は生または乾燥を生米と一緒に炊く。先に炒ったり、別茹でしてあとから混ぜるのは別調理。米と一緒に炊くことで香りが米に移る。
  • 乾燥落花生を使う場合は前日から水に浸ける(最低4時間)。戻さずに炊くと固いまま仕上がる。

作り方

  1. 米を研いで、ザルに上げ15〜30分置く。
  2. 【生落花生の場合】薄皮付きのまま水洗いする。黒ずんだ薄皮は手でこすって落とす程度でよい。皮は剥かない。 【乾燥落花生の場合】前日から水に浸けて戻す。薄皮は残す。
  3. 炊飯器に米を入れ、塩小さじ1〜1と1/2、酒大さじ1(使う場合)を加え、2合の目盛りまで水を注ぐ。
  4. 落花生をそのまま上に乗せ、軽く混ぜて通常モードで炊く。
  5. 炊き上がったらすぐに蓋を開けず、10分蒸らす。
  6. 蓋を開けて底からしゃもじで大きく混ぜる。落花生が潰れないよう、切るように混ぜる。

食べ方

そのままご飯として食べる。切り干しダイコンの煮物、菜花のからし和え、漬物など、シンプルな副菜と合わせる家庭が多い。おにぎりにしても香りが保たれる。

補足

  • 失敗しやすいポイント:乾燥落花生の戻し不足。十分に戻さないと炊き上がりが固い。前日水浸けを推奨。生落花生のほうが失敗が少ない。
  • 代用提案:乾燥落花生は通年、スーパー(製菓材料コーナー)・業務スーパー・富澤商店・Amazonで入手可能。素煎り(ローストピーナッツ)ではなく、無塩・生の乾燥落花生を使うこと。ローストしたものを使うと香りが変わり、本来の甘みが出ない。
  • 生落花生の入手:千葉県産の生落花生は9〜10月に直売所・道の駅・ネット通販で出回る。この時期に作るのが香りの面で最も本来に近い。
  • 翌日の楽しみ方:冷めるとやや香りが落ちるが、おにぎりにして翌日の昼食にしても成立する。レンジ加熱より蒸し器での温め直しが香りを保ちやすい。
この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する