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- 国:エストニア共和国 - 地域:ポルヴァ県(Põlva County)南東部、ラピナ行政区(Räpina vald)。ラトビア国境から北西に50kmほど内陸に入った農村地帯。 - 気候・地形:湿潤大陸性気候。冬は氷点下が続き積雪あり。夏は短く涼しい。針葉樹と白樺の混交林が広がり、ペイプス湖(ヤルヴェ)の東岸に近い低平な地形。泥炭地と農地が混在する。 - 暮らしの基本:農業・林業・酪農が主産業。人口密度は低く、集落は分散。主食はライ麦パン・ジャガイモ・豚肉。ペイプス湖の漁業も副業的に行われる。ロシア系住民も一定数居住する多言語地域。 ---
道は舗装が途切れている。砂利の粒が靴底に当たり、一歩ごとにかすかな音が出る。両側に白樺が立ち並んでいる。幹の白い部分に黒い節が等間隔で並んでいる。根元の草はすでに黄みを帯びている。十月の午後、空は一枚の白い板のようで、光の向きがわからない。 あなたは道沿いに並んだ低い木造家屋の前を歩いている。塀はない。庭に積み上げられた薪が家の壁の半分ほどの高さまである。積み方は几帳面で、木口が外に向いている。ペイプス湖から来た湿った空気が服の表面にまとわりつく。 バス停のそばで、男が自転車のタイヤにポンプを差し込んでいる。四十代半ばか後半。オレンジの安全ベストを上着の上から着ている。自転車の荷台に布袋が二つ縛りつけてある。ポンプが一回ごとに金属的な音を立てる。あなたが地図を出すと、男は顔を上げ、エストニア語で二言三言言った。聞き取れない。次にロシア語が出てきた。半分だけ聞き取れた。「右、それからまっすぐ」というようなことだった。 男の名前はアンドレスといった。あとで聞いた。 アンドレスはそのまま自転車を押して歩き始め、あなたもついて行く形になった。薪の積まれた庭を二つ過ぎたところで、彼は緑色に塗られた木の扉の前で止まった。ノックはしなかった。そのまま開けた。 土間はタイル張りで、タイルの目地が黒い。靴を脱ぐ段差がある。棚に長靴が二足と運動靴が一足。コートかけに防水ジャケットが三枚。奥から女の声がした。アンドレスが答えた。それだけだった。 廊下を進むと台所に出た。窓は小さく、外の白い光がそのまま入っている。テーブルはリノリウムシートが貼られた四人掛け。端に新聞が一部、たたまれている。壁に小さなカレンダー。数字だけで絵は入っていない。 女はマレという名前で、五十代前半。灰色のセーターにエプロンをつけている。鍋が二つコンロにかかっていて、一つは音を立てていた。鍋の縁から湯気が細く出ている。マレは振り返らずに何か言い、アンドレスが椅子を引いた。座るように、ということだった。 七歳か八歳くらいの子どもが廊下の入り口から顔だけ出した。数秒見てから消えた。 台所の奥の小さな棚に、ガラス瓶が並んでいる。中に何かが漬かっている。色は茶色と黄色。蓋に手書きの紙が貼ってある。読めない。棚の下にジャガイモの袋が半分ほど置いてあり、袋の口は開いたままだった。 マレが鍋の蓋を取った。白い湯気が一度に広がった。大麦の粒が崩れかけた状態で見えた。豚の脂の匂いが混じる。重い、鈍い匂いで、台所の空気に溶けるのに少し時間がかかる。もう一方の鍋からはザワークラウトの酸い匂いがした。 子どもが戻ってきて、今度はテーブルについた。スプーンを自分で置いた。アンドレスもコートを壁のフックにかけてから席についた。マレが鍋ごとテーブルに運んだ。陶器の深皿が人数分並んだ。皿の縁に小さな欠けがある。 外で風が出てきた。窓枠がかすかに鳴る。 マレが木のスプーンで鍋の中を混ぜた。鍋底から灰色がかった塊が浮き上がってきた。大麦と、崩れた繊維状のもの。豚肉だと思われた。皿に盛られるとその量がよくわかった。スプーンが当たったとき、粒と粒の間に粘りがあった。 バターの固まりが小皿に出てきた。マレがテーブルに置いた。アンドレスが子どもの皿にバターを少し乗せた。子どもはすぐにスプーンでそれを沈めた。 全員の皿が満たされた。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Mulgipuder / ムルギプデル(大麦と豚肉のグリューエル)

この料理について

エストニア南部のヴィリャンディ・マルヴァ地方を起源とする農家の日常食で、現在もポルヴァ県を含む内陸農村部の家庭で平日に作られる。大麦の粒粥に豚肉の脂とほぐし肉を混ぜ込んだ一皿で、食べる前にバターを溶かし込むのが家庭の作法。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
丸麦(押し麦ではなく粒のまま)300g富澤商店・Amazon・一部自然食品店押し麦で代用可(食感が変わる・後述)
豚バラ肉またはスペアリブ400gスーパー脂身多めが本来の風味に近い
1〜1.2L肉の煮汁ごと使う
小さじ1〜1.5仕上げで調整
バター(有塩)40〜60gスーパー食べる直前にのせる・省略不可
玉ねぎ(任意)1/2個スーパー肉を煮るときに加える家庭と加えない家庭がある

アレルゲン:乳製品(バター)、豚肉(ハラール非対応)

ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(エストニア語)ロシア語ソース英語ソース判定
丸麦(odrakruup)複数レシピで一致YouTube動画で確認複数ブログで確認必須
豚バラ/スペアリブ頻出(sealiha)「мясо」として言及複数ソースで確認必須
バターを仕上げに乗せるエストニア語レシピで強調動画内で確認英語ブログで確認必須
塩のみ調味(スパイス不使用)一致一致一致必須
玉ねぎ一部レシピのみ動画によって有無あり一部のみオプション
ザワークラウト(付け合わせ)頻出確認確認付け合わせとして一般的

この料理を成立させる核

  • 丸麦を使うこと。押し麦・クイックオーツでは粒の歯ごたえと粘りが出ず別の料理になる
  • 肉を煮た煮汁ごと麦を炊くこと。この工程で脂と旨みが麦に吸収される
  • バターを食べる直前に乗せること。加熱中に溶かし込むのではなく、盛った後に固形で置く
  • 調味は塩だけ。香辛料・醤油・出汁を加えると別の料理になる
  • 麦が崩れて底に焦げ付き始める手前まで炊くこと。ポリッジ(粥)とリゾットの中間の粘度が目標

作り方

  1. 豚バラ肉(またはスペアリブ)を水1Lとともに鍋に入れ、強火にかける。沸騰したらアクを取り、弱火にして40〜50分煮る。玉ねぎを加える場合はここで丸ごと入れる。
  2. 肉を取り出し、粗熱が取れたら骨を外してほぐす。煮汁はそのまま鍋に残す。
  3. 煮汁の量を確認する。少なければ水を足して900mL〜1L程度に調整する。中火にかけて煮汁を沸かす。
  4. 丸麦を加える。木べらで混ぜながら中火で10分炊く。
  5. 弱火に落とし、蓋をして30〜40分炊く。途中5分おきに底から混ぜる。麦が水分をほぼ吸収し、粒が膨らんでほぐれかけてきたら次へ。
  6. ほぐした豚肉を戻し入れ、塩で味を調える。弱火のまま蓋を外して5〜10分、好みの硬さになるまで仕上げる。水分が飛びすぎたら少量の水を足す。
  7. 皿に盛り、食卓でバターを一切れのせる。

食べ方

深皿に盛ってバターをのせ、そのまま食べる。付け合わせにザワークラウト(酢キャベツ)を小皿で出すことが多い。酸味が脂の重さを切る。ライ麦パンを添えることもある。スプーン一本で食べる料理で、フォークは使わない。

補足

  • 失敗しやすいポイント:丸麦は吸水量が多いため途中で焦げやすい。底から必ず混ぜること。水分が足りなくなったら遠慮なく水を足す。
  • 押し麦での代用:炊く時間を15〜20分に短縮できるが、粘りが弱くリゾット寄りの食感になる。風味の差は許容範囲内。
  • 豚肉の代用:豚肩ロースでも可。脂身が少ない部位を使うとコクが出にくいため、仕上げのバターを増量すること。
  • 翌日の楽しみ方:冷蔵で翌日はさらに麦が水分を吸って固まる。フライパンにバターを溶かして平たく成形し、両面を焼いてパンケーキ状にする食べ方がある。表面がかりっとなる。
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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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