← 地図に戻る
- 国:アルメニア共和国 - 地域:ロリ地方・アラヴェルディ市周辺(北アルメニア、ジョージア国境から約20km) - 気候・地形:デヴェト川渓谷の急峻な谷間に立地。標高700〜1000m前後。大陸性気候で冬は積雪、夏は短く乾燥気味。山林が周囲を取り囲む。 - 暮らしの基本:ソ連期の銅製錬工場(現在は操業縮小)を軸に発展した工業都市。現在は工場縮小後の経済的停滞が続き、農村との往来が日常的。野菜の自家栽培、保存食の仕込みが家庭の基礎。 ---
八月の午後、渓谷の底にある。 両側の斜面が迫っている。道路は川沿いに走り、アスファルトの継ぎ目が何度も繰り返される。川の音は低く、絶えない。橋の欄干に手を置くと、金属が熱い。太陽は真上ではなく山の稜線寄りにある。影の始まりが早い土地だ。 市場は橋の手前の空き地にある。折り畳みテーブルにトマト、黄色いスモモ、束になった青ネギが並んでいる。テーブルの脚が砂利で揺れている。隣に止まったラダは窓が全開で、シートに花柄のカバーがかかっている。 あなたは野菜を買おうとして、袋を持っていないことに気づく。隣でビニール袋を束ねていた女性——アニというらしい、四十代か五十代か、日焼けした腕、白に花柄のエプロンが腰に巻いてある——が袋を一枚くれる。それから何か言う。聞き取れない。 身振りでわかる。来い、ということだ。 歩いて五分。坂道は石畳ではなく締まった土で、端に草が生えている。鶏が一羽、塀の下にいる。門は金属製で、ペンキが一部剥げている。ラッチを彼女が持ち上げて開ける。 中庭に入る。コンクリートの床。隅に積まれた薪。物干し線に白いシーツと濃い色の靴下が交互に干してある。突き当たりの建物は石造りで、窓枠が水色に塗られている。 玄関のドアを開けると、すぐ台所だ。 天井が低い。蛍光灯が一本、左端で点いている。コンロはガス、二口。鍋が一つ、火にかかっている。鍋の縁から蒸気が出ている。鉄製の重そうな蓋。匂いは最初わからない、次の瞬間、肉と玉ねぎと、もう少し青い何か——草の匂いが混じっている。 壁にはカレンダーが一枚、釘で留まっている。月の写真。横に小さなアイコンの額縁がある。冷蔵庫は白、年代物。マグネットが四つ、写真が一枚挟まっている。 アニが冷蔵庫を開ける。棚を確認する。何かを取り出す。小さなセラミックの器。蓋を開けると白い。マツォーニだろう、と思うがあなたには確認できない。 廊下から子供の声がする。七歳か八歳。駆け込んできて、あなたを見て止まる。アニが何か言う。子供は部屋に戻る。 鍋の火が少し弱められる。木のスプーンで一度かき混ぜる。蓋が戻される。 窓の外で犬が吠える。一度だけ。 テーブルはキッチンの奥、壁際に寄せてある。布がかかっている。格子柄、くすんだ赤と白。椅子は四脚、金属脚に木の座面。一脚が別のデザインで、後から足されたものとわかる。 皿が運ばれる。深皿、白い縁に細い青いライン。 鍋が持ち上げられてテーブルに来る。蓋が外される。 湯気が一気に出る。 茶色い液体、その中に肉の塊。トマトの赤。上に緑の葉が散っている。バジルか、それとも別の何かか、あなたには区別できない。玉ねぎが溶けかけている。 子供が戻ってきて、向かいの椅子に座る。アニがスプーンを置く。 乾いたパンが皿の横に置かれる。ラヴァシュより厚い、丸いパン。外側が少し焦げている。 アニがあなたの皿に鍋の中身をよそう。 椅子が引かれる音がする。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Հաշլամա / ハシュラマ

この料理について

ハシュラマはアルメニアの家庭で広く作られる肉と野菜の煮込み料理で、特別な行事ではなく平日の夕食として食卓に上る。ロリ地方など北部の山岳地帯では、羊肉または牛肉を使い、トマト・玉ねぎ・ピーマンと一緒に長時間煮込む。鍋ひとつで完成し、パンと一緒に食べる。


材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
羊肩肉または牛すね肉(骨付きあれば理想)700〜800gスーパー、ハラール系肉屋骨付きのほうが出汁が出る。なければ骨なしでも可
玉ねぎ2個(大)スーパー薄切りではなく大きめに切る
熟したトマト3〜4個スーパー缶詰トマト(ホール)200gで代用可。風味は落ちる
赤・緑ピーマン各1個スーパー
にんにく3〜4片スーパーつぶすだけ、刻まない
水またはお湯200〜300ml野菜の水分が主な煮汁になるため少量で足りる
小さじ1〜1.5最後に調整
黒こしょう小さじ1/2スーパー
バジル(生、またはドライ)生なら大さじ2〜3 / ドライなら小さじ1スーパー、KALDI仕上げに載せるものと途中で入れるものに分ける
パプリカパウダー(オプション)小さじ1スーパー、KALDI現地では入れる家庭と入れない家庭がある
ラヴァシュまたは厚めのパン適量KALDI、中東系食材店、自家製ピタで代用可

アレルゲン:特定原材料該当なし(使用食材による)。羊肉アレルギーの方は牛肉に変更すること。


ソース照合メモ

食材・要素現地語ソース(hy)ロシア語ソース(ru)日本語ソース(ja)判定
羊肉または牛肉記載なし(検索結果に直接レシピなし)Redditにハシュラマ言及ありクックパッドにハシュラマ記載(ラム肉・トマト・玉ねぎ・じゃがいも)◎必須
トマトクックパッド複数件で確認◎必須
玉ねぎクックパッド複数件で確認◎必須
じゃがいもクックパッド1件で記載△オプション(地域差あり)
バジル一般的なアルメニア料理文脈から◎必須(仕上げ香草として)
ピーマンクックパッド・一般資料◎必須(複数ソース確認)
煮込み方(野菜の水分のみで蒸し煮)クックパッド調理法で確認◎必須(核となる調理法)
水を最小限に抑えるクックパッド・一般資料◎必須(ハシュラマの定義的特徴)

注記:今回の検索結果はアルメニア語・ロシア語の直接レシピが取得できていない。日本語ソース(クックパッド複数件)と、アルメニア料理の一般的な文献知識を照合した。検索結果の質に制約があるため、「ソース照合メモ」の判定はその旨を前提として読むこと。


この料理を成立させる核

  • 水をほとんど加えない:野菜(主にトマト・玉ねぎ)から出る水分だけで肉を煮る。水を大量に入れるとスープになり、ハシュラマではなくなる
  • 肉と野菜を層状に重ねて鍋に入れ、蓋をして蒸し煮にする:炒めない。焼かない。最初から生のまま鍋に重ねる
  • 長時間の弱火煮込み:肉がほぐれる手前まで、最低1時間半〜2時間
  • 仕上げのバジル(またはタラゴン):加熱後に香草を載せること。加熱中に入れると香りが飛ぶ
  • パンで汁をすくって食べる:汁気が料理の一部であり、捨てない

作り方

  1. 肉を大きめに切る(5〜6cm角)。水気を拭く。
  2. 厚手の鍋(鋳物鍋や土鍋が理想)の底に玉ねぎの輪切りを敷く。玉ねぎは厚め(1cm)に切る。
  3. 玉ねぎの上に肉を並べる。塩・黒こしょうを全体にふる。
  4. 肉の上にトマトのざく切り(4〜6等分)、ピーマンの大切りを重ねる。
  5. にんにくをつぶして全体に散らす。
  6. 水を鍋の底から1〜2cmほど加える(野菜の水分が出るまでの呼び水程度)。
  7. 蓋をして中火にかける。沸騰したら弱火に落とす。
  8. 弱火で1時間半〜2時間、蓋を開けずに蒸し煮にする。途中で水分が完全に飛びそうなら、大さじ2〜3の水を足す。
  9. 肉に箸を刺してすっと入ったら火を止める。
  10. 蓋を開け、生のバジル(または乾燥タラゴン)を散らし、1〜2分置いてから盛る。

食べ方

深皿に肉と野菜と汁をたっぷりよそい、ラヴァシュやピタなどのパンを手でちぎって汁につけて食べる。マツォーニ(アルメニアのプレーンヨーグルト)を添えることがある。日本ではプレーンの水切りヨーグルトで代用できる。


補足

失敗しやすいポイント

  • 水を入れすぎるとスープになる。野菜の水分を信頼して、最初は控えめに
  • 蓋を頻繁に開けると蒸気が逃げ、肉が固くなる。途中でのぞかない

代用提案

  • 羊肉 → 牛すね肉・牛バラ肉(風味は変わるが調理法は同じ。煮込み時間は同等)
  • 生トマトが水っぽい場合 → ホールトマト缶200gで代用(ただし甘みが出やすいので塩で調整)
  • タラゴン → ドライがあればKALDIや富澤商店で入手可。なければバジルのみで代用可(香りの方向性が変わる)
  • じゃがいもを加えると腹持ちがよくなる。工程3の後に大きめに切って入れる(地域によって入れる)

時短バージョン 圧力鍋を使用する場合:弱圧で40〜50分。ただし野菜が崩れやすいため、トマトとピーマンは加圧開始後30分で追加するとよい。

翌日の楽しみ方 煮汁がゼラチン質でまとまり、翌日は一層まとまった味になる。冷蔵保存で2〜3日可。温め直しは弱火でゆっくり。

この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する