← 地図に戻る
- 国:パレスチナ自治区(ガザ地区) - 地域:ガザ市、ガザ県北部 - 気候・地形:地中海性気候。夏は乾燥した熱気、冬に雨が集中する。海岸線に沿って細長く延びる平地。農地と市街地が混在する。 - 暮らしの基本:小麦・オリーブ油・豆類・野菜が食卓の中心。漁業と農業が地域経済の一角を担う。家族単位の世帯が多く、料理は家の中で作られる。電力は不安定で、カセットガスやプロパンが調理の主な熱源。 --- **【重要な注記】** この地域は現在、深刻な人道的危機状況にある。以下の観測ログ描写は、現在の情勢ではなく、ガザの市井の家庭生活の記録資料("The Gaza Kitchen"、国境なき子どもたちのレシピ記録、現地証言)をもとに再構成した描写である。現状を美化するものではなく、そこに存在した/存在する日常の記録として読んでいただきたい。 ---
午後三時の路地。コンクリートブロックを積んだ塀が両側に迫っている。目地からモルタルがはみ出したまま固まっている。あなたは塀の際を歩く。地面は乾いた土と小石が混じり、靴底に均等に圧がかかる。 空は白く、日差しに奥行きがない。影が短い。 市場の端の方で、プラスチックの籠を頭に乗せた男が前を横切る。籠の中に丸いピタのような薄いパンが重なっている。男は振り返らない。どこかで発電機が唸っている。規則的に、少し高く、また落ちる。 角を曲がると、家の前にプラスチックの椅子が出ている。五十代くらいの女が椅子に座って豆を選り分けている。手の中でパチパチと音がする。干した野菜の束が壁のフックに下がっている。茶色と黒の間の色。 あなたが地図を見て立ち止まると、女が手招きをした。ウムム・ハッサン、と彼女は自分を指さした。三語か四語の言葉が来た。意味は半分しか取れない。それでも、彼女はすでに立ち上がって戸の方へ向かっている。 家の中は薄暗い。床はコンクリートを覆う薄いタイル張りで、足音が固く返ってくる。正面の壁に安物のカレンダーが貼ってある。日付の上に、誰かが鉛筆で何かを書いた跡がある。天井の蛍光灯はついていない。窓からの光だけが斜めに入る。 台所は狭い。カセットガスのコンロが二口、壁際の台に乗っている。脇に大きなアルミの鍋。プラスチック製の計量カップが壁にかかっている。棚にはオリーブオイルの缶、布で口を縛った袋が並んでいる。 女が鍋の蓋を持ち上げた。その瞬間、蒸気が上がった。湯気は白く、すぐに天井付近で消える。油と何か酸味のある匂いが鼻に来た。トマトに近い何か、もう少し濃い。 奥の部屋から子どもが二人入ってきた。七歳前後と三歳前後。上の子は布製のサンダルを引きずるように歩く。下の子はあなたを見て、台所の壁際に背中をつける。 女が何かを短く言うと、上の子が駆けていった。しばらくして、平たい皿を両手で持って戻ってくる。皿の縁に模様が描いてある。青と白。 テーブルは低い。床に近い位置に丸いトレイが置かれ、その上に皿が並んでいく。白いご飯がある。それとは別の鍋から、何かが椀に盛られる。汁は濃いオレンジに近い赤。表面にくぼみがある。植物のかけらが浮いている。 女が食卓に座った。上の子が皿の前に来る。下の子はまだ壁際にいる。 そのとき、電気が落ちた。音が変わる。発電機の音が止まり、外の音が入ってくる。遠くで犬が吠えている。女は動かない。子どもたちも動かない。少しして、女が椀の方へスプーンを置く。 上の子がそれを取って、あなたの前に差し出した。 あなたはスプーンを受け取る。 ---
今日のふらりごはん

ガザ風ダッジャージュ・ビル・クスバラ・ワ・ルッズ

Dajaj bil-kuzbara wa-ruzz / ガザ風コリアンダー鶏肉のライスボウル

この料理について

ガザ地区の家庭で週に複数回登場する平日のごはん。鶏肉をコリアンダーとトマトで煮込み、白飯の上にかける形が基本形。「Gaza Kitchen」記録では、コリアンダーの大量使用がガザ固有の特徴として繰り返し登場し、他のパレスチナ地域との差異として証言されている。特別な日の料理ではなく、母から子へ渡される日常の鍋。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
鶏もも肉(骨つき)800gスーパー全般骨なしでも可。骨つきの方がスープに旨味が出る
生コリアンダー(葉+茎)1束(約80〜100g)スーパー、KALDI、アジア食材店省略不可。これがガザ固有性の核
トマト(完熟)4個(中)またはホールトマト缶400gスーパー全般生トマトの方が酸味が立つ
玉ねぎ2個スーパー全般
にんにく6〜8片スーパー全般多めが現地の標準
オリーブオイル大さじ3スーパー全般
クミンパウダー小さじ1スーパー、KALDI
ターメリックパウダー小さじ½スーパー全般
小さじ1〜2
黒こしょう小さじ½
400ml
白米2合スーパー全般日本の短粒米でも可。現地は中長粒米
レモン汁大さじ1(仕上げ)スーパー全般省略可だが、あると締まる

アレルゲン:なし(鶏肉・植物油・野菜のみ。小麦・乳製品・卵・ナッツ不使用)

ソース照合メモ

食材/要素現地語・現地資料ソース英語ソース日本語ソース判定
鶏肉Gaza Kitchen記録(家庭の定番肉)"Let's Cook for Gaza"シリーズガザ・キッチン邦訳(オレンジページ2025)必須
生コリアンダー大量使用Gaza Kitchen:「ガザ固有の特徴」として明記gazakitchens.wordpress.com複数投稿ガザ・キッチン邦訳で強調必須・地域固有
トマトベースのソース全ソース共通全ソース共通全ソース共通必須
にんにく多め現地語証言複数Gaza Kitchen英語版ガザ・キッチン邦訳必須
クミン現地語資料に頻出英語レシピ複数で確認坂ノ途中レシピにも登場必須
ターメリック現地語資料に出現一部英語ソース確認済み地域オプション(入れると色が鮮やか)
オリーブオイル全ソース共通全ソース共通全ソース共通必須
レモン仕上げ現地語資料に出現一部ソース確認オプション(好みで)

この料理を成立させる核

  • 生コリアンダーを大量に使うこと。葉だけでなく茎も刻んで煮込む。乾燥コリアンダーで代用すると風味が別物になる。これが「ガザの家の鶏料理」たらしめる最大の要素
  • にんにくを多量に使うこと。6〜8片は「多すぎ」ではなく標準。減らすとガザの味の輪郭が消える
  • ソースと米を別々に作り、米の上にかけて出すこと。最初から米を煮込まない(マクルーバとは別の料理)
  • トマトベースのソースで鶏を煮ること。澄んだブロス系ではなく、トマトが溶け込んだ濃い汁になる

作り方

  1. 下準備:コリアンダーを洗い、葉と茎を粗く刻む。玉ねぎは薄切り、にんにくは刻む。鶏もも肉は余分な脂を取り除き、大きければ半分に切る。

  2. 炒める:厚手の鍋にオリーブオイルを中火で熱し、玉ねぎを入れる。透明感が出てわずかに色づくまで8〜10分炒める。

  3. 鶏を加える:にんにくを加えてさらに1分炒め、鶏もも肉を入れる。表面が白くなるまで両面を焼く(3〜4分ずつ)。

  4. スパイスとトマト:クミン、ターメリック、塩、黒こしょうを加えて全体に絡める。トマトを加える(生の場合はざく切り、缶の場合はそのまま)。木べらでトマトをつぶしながら混ぜる。

  5. コリアンダーと煮込み:刻んだコリアンダーの3分の2を加える。水400mlを注ぎ、蓋をして弱火〜中弱火で30〜35分煮込む。途中で一度混ぜる。

  6. 仕上げ:鶏肉が柔らかくなり、ソースが少し濃くなったら、レモン汁と残りのコリアンダーを加える。ひと混ぜして火を止める。

  7. 米を炊く:通常通り白米を炊く。現地では中長粒米だが、日本の米でも成立する。

  8. 盛り付け:皿に白飯を盛り、鶏肉とソースを上からかける。

食べ方

白飯の上にたっぷりのソースをかけ、スプーンで崩しながら食べる。平たいパン(ピタやアラビックブレッド)と一緒に出すことも多い。家族全員が同じ大皿を囲んで食べる形が一般的。食卓にはぬか漬けに相当する酸味のある漬物(ムハッラル)が添えられることが多いが、なくても成立する。

補足

  • 失敗しやすいポイント:コリアンダーを少量にすると「普通のトマト煮込み」になる。量を惜しまないこと。また、弱火で蓋をして時間をかけることが鶏の柔らかさに直結する。強火で短時間は硬くなる。
  • 乾燥コリアンダーで代用する場合:小さじ1〜2で代用できるが、青い香りと水分が失われ、ガザ固有の風味からは遠くなる。アジア食材店や大型スーパーで生コリアンダーの入手を優先したい。
  • 時短バージョン:骨なし鶏もも肉を使うと煮込み時間を20分に短縮できる。風味はわずかに落ちる。
  • 翌日の楽しみ方:ソースは翌日さらに味が落ち着き、パンにつけて食べると一層おいしい。冷蔵3日保存可能。
この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する