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- 国:日本 - 地域:神奈川県鎌倉市 三浦半島の付け根、相模湾に面した丘陵地帯 - 気候・地形:温暖な太平洋側気候。冬も比較的温かく積雪は稀。丘と谷(谷戸)が入り組んだ地形で、平地は少ない。海岸線まで近く、海風が通る - 暮らしの基本:人口約17万人の住宅地。観光業が経済の柱だが、住民の大半は通勤圏内の普通の住宅地として居住。野菜農家(鎌倉野菜として流通)と漁業が一部残るが、食材の多くはスーパーで調達。谷戸の斜面や住宅密集地に一戸建てと集合住宅が混在する ---
1月の午後3時。 坂の途中で立ち止まる。アスファルトが湿っている。午前中に降った雨がまだ影の部分に残っていて、そこだけ色が濃い。上を見ると電線が3本、斜めに張られている。カラスが1羽、動かない。 坂を上りきったところで道が二股になる。左は民家の塀が続いていて、右は木の根が舗装を持ち上げかけている細い道だ。どちらにも人影はない。右の道を選ぶ。 石段が現れる。苔が端に寄っている。石段を5段上がったところで、門も表札もない小さな家の前に出る。玄関先の植木鉢が3つ並んでいて、そのうちの1つが倒れている。風ではなく、何かに蹴られた感じの倒れ方だ。 「あ、すみません」 声がした。引き戸が少し開いていて、奥からエプロン姿の人が出てくる。田中恵子、62歳。夫は横浜の設備会社に勤め、娘は2年前に結婚して逗子に住んでいる。週に一度、近くの整骨院でパートをしている。植木鉢を拾い上げながら、石段の上で立ち止まっているあなたに気づいて、少し首を傾ける。 「上のお宅を探してるんですか」 違うと答えようとした瞬間、引き戸の陰から猫が飛び出してきて、あなたの足元をすり抜ける。茶白の雑種で、首輪がない。猫は石段を一気に駆け下りていく。 「またあの子が……」 田中さんが石段の下を見る。猫はもうどこにもいない。近所の野良で、去年から頻繁に来るようになったらしい。引き戸を閉めるついでに、中に上がっていきませんかと言われる。 廊下は畳敷きから突然フローリングに変わる。継ぎ足した部分だと見てわかる。突き当たりに台所があって、引き戸のすりガラス越しに湯気の形が動いている。 台所の引き戸を開けてもらう。 鍋が1つ、コンロの上にある。鉄のような重さを感じる鍋だが、ステンレスのそれよりは黒く、底が厚い。土鍋でも、アルミでもない。蓋がずれていて、そこから白い湯気が細く出ている。 流し台の隣に、皮をむいた大根が4切れ、まな板の上に並んでいる。端が面取りされている。その横に、崩れかけた豆腐のパックがある。半丁分くらいが残っていて、水分が滲みている。 冷蔵庫の横に、黒い乾物の束が立てかけてある。干した何かで、紐で縛ってある。 「今日はけんちん作ってたんです。旦那が帰り遅いんだけど、寒いから」 ラジオがかかっている。天気予報を読み上げる声が聞こえる。明日は晴れ、夜から曇り。音量は小さい。 椅子は4脚あるが、1脚だけ背もたれのビニールカバーが破れていて、ガムテープで補修してある。テーブルの上に箸置きが2組出ている。あなたのぶんが追加されて3組になる。 鍋を覗かせてもらう。 根菜が沈んでいる。にんじん、大根、何か白い塊。底から気泡が上がってくる速度が、2秒に1回くらいだ。鍋の縁が少し焦げていて、そこだけ色が変わっている。液体は透明に近い。醤油をほとんど使っていないか、あるいはまだ入れていないか。 こんにゃくが入っていることに、引き上げたとき初めてわかる。手でちぎった断面が、切った断面より表面積が大きく、液体を含んでいる。 田中さんが椀を3つ出す。木地のような色をした椀で、縁がわずかに欠けているものが1つある。お玉で鍋の中をさらう音がする。 すりごまを小さな瓶から振りかける。 椀がテーブルに置かれる。湯気が鼻まで届く。油の感触が薄く、液体はほぼ透明だ。根菜の角がにじんでいる。大根は箸で少し押すと形を保ったまま少し沈む。 田中さんが自分の椀に手を合わせる。 あなたも椀を持つ。 ---
今日のふらりごはん

料理名

けんちん汁 / Kenchinjiru

この料理について

神奈川県・鎌倉市を代表する汁物で、鎌倉の建長寺(けんちょうじ)の精進料理が起源とされる。肉・魚を使わず、根菜・豆腐・こんにゃくをごま油で炒めてから出汁で煮る汁物として、この地域の家庭に定着している。農林水産省「うちの郷土料理」にも神奈川県の郷土料理として登録されており、鎌倉市の小学校給食では年3回ほど提供されている。


材料(2〜3人分)

食材分量日本での入手備考
木綿豆腐1/2丁(約150g)スーパー全般水切りして使う
大根40g(約2cm分)スーパー全般いちょう切り
にんじん30gスーパー全般いちょう切り
れんこん30gスーパー全般いちょう切り;なければゴボウで代用可(食感と土の風味が変わる)
こんにゃく50gスーパー全般手でちぎる(重要)
ごぼう30gスーパー全般斜め薄切りまたはささがき
里芋30gスーパー全般・旬は秋冬一口大;なければじゃがいもで代用(煮崩れやすくなる)
昆布だし(または昆布と干ししいたけの合わせだし)400〜450mlスーパー全般精進料理の由来に合わせるなら昆布のみ
ごま油大さじ1スーパー全般炒め用。省略不可
醤油大さじ1〜1.5スーパー全般薄口醤油でも可
小さじ1/4〜適量スーパー全般味の調整用
すりごま大さじ1スーパー全般仕上げ用
大さじ1スーパー全般風味付け

アレルゲン:ごま(すりごま、ごま油)、大豆(豆腐、醤油)


ソース照合メモ

農林水産省「うちの郷土料理」(日本語一次ソース)を主軸に、鎌倉家庭料理ネットワーク(kcn-net.org)の記述と照合した。

食材・工程農水省ソース(日本語)kcn-net(地域ソース)判定
木綿豆腐◎記載あり◎記載あり必須
大根◎記載あり◎記載あり必須
にんじん◎記載あり◎記載あり必須
れんこん◎記載あり○言及あり必須
こんにゃく◎記載あり○言及あり必須
ごぼう◎記載あり○言及あり必須
里芋◎記載あり○言及あり必須
ごま油で炒める◎記載あり(精進由来の工程)◎記載あり必須・核
こんにゃくを手でちぎる◎強調あり○言及あり必須・核
昆布だし(精進)◎記載あり○言及あり家庭では煮干だしも混在
すりごま仕上げ○記載あり○言及あり標準的
肉・魚介を使わない◎前提として明記◎前提必須(原則)

この料理を成立させる核

  • ごま油で炒めてから煮る:根菜・豆腐・こんにゃくをごま油で炒めてから出汁を加える。この順番を省略すると「精進の汁物」ではなく「野菜の澄まし汁」になる
  • 豆腐は炒める前に崩す:水切りした豆腐を鍋に入れて粗く崩しながら炒める。最初から賽の目に切ると、この料理の崩れた質感が出ない
  • こんにゃくは手でちぎる:断面の凹凸が液体と風味をよく含む。包丁で切ると表面積が小さくなり、食感の差が出る
  • 肉・魚介を使わない:出汁も含め、精進ベース(昆布・干ししいたけ)が由来に忠実。煮干だしを使う家庭も多いが、動物性出汁にすると性格が変わる
  • 汁は透明に近い薄味:醤油を入れすぎない。根菜の甘みと油の香りが汁に出るので、塩気は控えめで仕上げる

作り方

  1. 豆腐の水切り:木綿豆腐をキッチンペーパーで包み、10〜15分おく。または電子レンジ600Wで1分加熱して水分を飛ばす
  2. 野菜の下処理:大根・にんじん・れんこんはいちょう切り(厚さ5mm前後)。ごぼうはささがきまたは斜め薄切りにして水にさらす。里芋は一口大。こんにゃくは手で一口大にちぎる
  3. 炒め:鍋にごま油を中火で熱する。こんにゃく→ごぼう→にんじん→大根→れんこん→里芋の順に炒める。全体に油が回ったら、豆腐を手で粗く崩しながら加え、さらに2分ほど炒める
  4. 出汁を加える:昆布だし(または合わせだし)400〜450mlを加える。強火にして沸騰したらアクをすくう
  5. 煮る:中火に落とし、蓋をずらして15〜20分。大根とにんじんに箸がすっと入れば火が通っている
  6. 調味:酒大さじ1、醤油大さじ1〜1.5、塩小さじ1/4を加えて味を調える。汁はほぼ透明のままを目指す。醤油を入れすぎない
  7. 仕上げ:椀に盛り、すりごまを振る

食べ方

ごはんのおかずとして、または単独の汁物として食べる。白飯と一緒が基本。根菜が多いので汁物単体でもかなりの量になる。翌朝に温め直してもよい。


補足

失敗しやすいポイント

  • 豆腐の水切りが甘いと汁が白濁し、余計な水分が出る。短時間でも水切りは必ずやる
  • 醤油を入れすぎると色が濃くなりすぎる。少量ずつ加えて調整する
  • 里芋は煮すぎると溶けるので、他の野菜より少し遅めに入れてもよい

代用提案の風味差

  • れんこん→ごぼう:食感は似るが、土の香りが強くなる。シャキ感はれんこんのほうが残る
  • 昆布だし→煮干だし:うまみが強くなりコクが出るが、精進の軽さが失われる
  • 里芋→じゃがいも:煮崩れしやすく汁がとろみがかる。悪くはないが別の料理感が出る

時短バージョン 炒め工程をごま油少量でさっと行い(5分)、あとは市販の昆布だしパックで煮る。根菜は薄めに切ると煮時間が10分に縮まる

翌日の楽しみ方 根菜が汁を吸って柔らかくなる。温め直す際に水を少量足す。そのまま雑炊の出汁にも使える

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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けんちん汁 / Kenchinjiru — 神奈川県 / 鎌倉市 / 日本 — ふらりごはん