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- 国:ロシア - 地域:沿海地方
十月半ば。ビキン川沿いの道は舗装が割れ、端に枯れた草が束になって残っている。空はほぼ白い。風がない。気温はおそらく三度か四度で、息が小さく白くなる。 道の左手に五階建ての集合住宅が三棟並んでいる。外壁はもともと薄黄色だったらしいが、いまは雨染みと剥落で斑になっている。エントランスのスチール扉が風圧でなく、自分の重さで少しずつ閉まる音がする。金属が金属に当たる低い響き。 あなたは市場のはずれで道を聞いた。荷物を持った男が「ついてきて」と言った。正確にはそう聞こえた。ロシア語だった。 男の名前はアレクセイ・ヴォルコフ、四十七歳。製材所の保全担当だと後でわかった。妻と息子一人、母親の四人暮らし。その日は昼番あがりで、白い防塵服の袖がまだ少し汚れていた。 集合住宅の三階。廊下は蛍光灯が一本切れていて、ドアの前だけ暗い。ドアを開けると玄関に長靴が三足と運動靴が二足、壁にジャケットが四枚重なって掛かっている。床はリノリウムで、端が少し浮いている。 室内に入る。暖房が入っていて、外との温度差が急に来る。顔の皮膚が反応する。 廊下の右手に居間。テレビが音量低めでついていて、スポーツか何かの実況が流れている。ソファに猫が一匹、背を向けて丸まっている。その猫が顔を上げない。 左手が台所。三畳ほどの空間に冷蔵庫、ガスコンロ二口、ステンレスのシンク。冷蔵庫の扉にマグネットが七個か八個。窓は曇りガラスで、外の輪郭がぼんやり見える。 アレクセイの母親がコンロの前に立っている。名前は聞き取れなかった。七十代。グレーのウールのカーディガン、エプロン。コンロの上の鍋から蒸気が出ていて、何かを時々かき混ぜている。 台所の隅のテーブルに小麦粉の袋が半分開いていて、端に白い粉がこぼれている。まな板の上に肉の塊があり、すでに細かく叩かれて、端に玉ねぎのみじん切りが盛られている。室内に獣脂に似た匂いと、玉ねぎが少し焦げかけた匂いが混ざっている。 アレクセイの妻、ナタリヤが冷蔵庫から瓶を一本出す。何か発酵した匂いがする。彼女は何かをアレクセイに言い、アレクセイが笑う。あなたには聞こえているが意味はわからない。 しばらくして、隣の部屋からドスンという音がした。続いて何かが転がる音。猫が急に起き上がり、廊下に消えた。ナタリヤが「ミーシャ!」と呼ぶ。中学生くらいの息子が顔を出して何か言い、また引っ込んだ。 台所のテーブルに四人分の席が準備される。深皿が並び、スプーンが置かれる。スプーンの柄は銀色のステンレスで、先が少し曲がったものが一本混じっている。 鍋から白い湯気が立つ。何かがその中で踊るように浮き沈みしている。形は均一ではない。耳に近い形のものが多い。ひとつがスプーンで掬われ、皿に移る。表面は薄い白で、縁が少し半透明になっている。皿の中で小さな水たまりができる。 バターの薄い塊が皿の端に添えられる。別の小皿にサワークリームが盛られてテーブルの中央に置かれる。 アレクセイが椅子を引いて、あなたに座るよう顎で示す。全員が席に着く。アレクセイの母親が最後に着席し、スプーンを手に取る。それが合図だった。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Пельмени / ペリメニ

この料理について

小麦粉の生地で肉だねを包んで茹でた、ロシア・シベリア・極東の家庭料理。ウラル以東の家庭では冬場にまとめて大量に作り、凍らせておくことが一般的で、「冷凍庫に必ずある食べ物」として平日の夕食に頻繁に登場する。ダリネレチェンスクのような内陸の工業都市では、週に複数回食卓に並ぶことも珍しくない。

材料(4人分・約60〜70個)

食材分量日本での入手備考
強力粉(または中力粉)300gスーパー本来はロシアの高グルテン小麦粉。強力粉で代用可
水(冷水)100〜120ml冷たい水を使うこと
1個スーパー
塩(生地用)小さじ1/2スーパー
豚ひき肉200gスーパー
牛ひき肉150gスーパー・業務スーパー豚牛混合が標準。牛100%は固くなる
玉ねぎ中1個(約150g)スーパー
塩(肉だね用)小さじ1
黒こしょう小さじ1/2スーパー多めが本場の感覚
バター30gスーパー茹で上がりに絡める
サワークリーム100〜150g成城石井・KALDI・Amazonこれが必須の付け合わせ。省略すると別の食べ物になる

アレルゲン:小麦、卵、乳製品(バター・サワークリーム)


ソース照合メモ

要素ロシア語ソース(YouTube・料理本系)英語ソース(一般ロシア料理サイト)日本語ソース(erifw.com他)判定
豚+牛混合肉だね◎確認(ロシア料理基本書で標準)◎確認◎確認必須
生地に卵+冷水◎確認(ソビエト調理書標準)◎確認◎確認必須
玉ねぎは生のままだねに混ぜる◎確認(炒めない)◎確認△記述薄い必須(炒めないこと)
黒こしょう多め◎現地語で強調◎確認必須
サワークリームで食べる◎確認(ほぼ全ソース)◎確認◎確認必須
バターを茹で上がりに絡める◎確認◎確認◎確認必須
酢または醤油で食べる変種ロシア語ソースには出ない一部言及あり一部言及ありオプション
大量に作って冷凍◎極東・シベリアのソースで強調◎確認◎確認地域固有(必須ではないが文化的核)

この料理を成立させる核

  • 生地は卵入りの硬めの生地。柔らかすぎると茹でているうちに破ける。こねた後に必ず30分以上休ませる
  • 肉だねの玉ねぎは生のまま混ぜる。炒めない。加熱すると肉汁の閉じ込めが変わり、食感と香りが別物になる
  • 黒こしょうは多め。肉だね100gあたり小さじ1/4以上。これがペリメニの風味の軸
  • サワークリームを添えて食べる。これが省かれると料理として完結しない。マヨネーズ・スメタナも類似するが、サワークリームが最も再現できる
  • 茹でた直後にバターを絡める。冷めると生地が固まってくっつく

作り方

  1. 生地を作る:強力粉をボウルに入れ、中央にくぼみを作り、卵・塩・冷水100mlを加える。手で5〜7分こねて、耳たぶより少し硬めの生地にする。水分が足りなければ少量ずつ足す。ラップで包み、冷蔵庫または室温で30分以上休ませる。
  2. 肉だねを作る:豚ひき肉と牛ひき肉を合わせる。玉ねぎをできる限り細かくみじん切りにして(フードプロセッサー可)、生のまま肉に混ぜる。塩・黒こしょうを加え、よくこねる。少し粘りが出るまで混ぜること。冷蔵庫で休ませる間に肉だねも冷やしておくと包みやすい。
  3. 生地を伸ばす:打ち粉をした台に取り出し、麺棒で2〜3mm厚さに伸ばす。コップ(直径7〜8cm)で円形に抜く。
  4. 包む:円形生地の中央に肉だねを小さじ1弱(約10g)のせる。半分に折り合わせて端をしっかり押さえる。左右の端を合わせて引き寄せ、指でつまんでくっつける。「帽子型」または「耳型」になる。
  5. 茹でる:大きめの鍋に湯を沸かし、塩を加える。ペリメニを入れ、浮き上がってからさらに5〜7分茹でる。生地がわずかに半透明になったら引き上げる。
  6. 仕上げ:茹で上がりをすぐに器に取り、バターをのせて絡める。サワークリームを別皿または器の端に添える。

食べ方

バターを絡めた熱いペリメニを、サワークリームをつけながら食べる。スプーンで食べるのが一般的。酢少量や黒こしょうを追加でかける家庭もある。スープのように煮汁ごと盛る食べ方(суп из пельменей)もある。


補足

失敗しやすいポイント

  • 生地を休ませないと伸ばしにくく、端がくっつかずに茹でている間に開く
  • 肉だねを詰めすぎると同様に開く。慣れるまでは少なめを推奨
  • 茹でる湯の量が少ないと生地どうしがくっつく。大きめの鍋で少量ずつ茹でること

代用提案の風味差

  • サワークリームの代用:無糖ギリシャヨーグルトで代用可能だが、脂肪分が低いため風味が軽くなる。コンビニのサワークリーム風調味料は乳化剤の味が前に出るため不向き
  • 牛ひき肉なしで豚のみ:脂肪分が増し、柔らかくなるが香りが単調になる
  • 強力粉の代用:中力粉でも可。薄力粉は生地が弱く破けやすいため不可

大量生産と冷凍(地域の定番やり方) 余った生地と肉だねはすべて包んでしまい、茹でる前の状態で冷凍する。クッキングシートを敷いたトレーに並べて冷凍し、固まったら袋に移す。茹でるときは凍ったまま熱湯に入れ、浮き上がってから8〜10分。冷凍で二〜三ヶ月保存可能。

翌日の楽しみ方 余ったペリメニをバターで焼くと、表面がカリッとなり食感が変わる。スープに入れて煮込む方法も一般的。

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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