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- 国:スペイン - 地域:バスク州
十一月の午後三時過ぎ。空は白く低い。 石畳の路面が乾いている。前の晩に雨が降ったはずだが、もう乾いている。縁石の角が黒ずんでいて、その黒が雨の名残を証言している。あなたは旧市街の南端にいる。坂はゆるく、左手にコンクリートの壁、右手に閉まったシャッターが続く。金属のシャッターには蹴り傷のような凹みがひとつ。 バスが来た。乗客は四人。うち一人が降りて、振り返らずに歩いていく。厚手のジャケットにキャンバス地のバッグ。バッグの底が少しふくらんでいる。 中央市場の前を通り過ぎる。もう店じまいの時刻に近い。魚屋の水が排水溝に流れている。音は細い。白い発泡スチロールの箱が縦に積まれて、台車に括られている。 あなたはメモを取りながら歩いていて、路地を曲がったところで段差を踏み外す。段差といっても五センチほど。しかし片足がそちらに落ちた。その瞬間、横にいた男が「おっ」と短く言った。六十代ほど、グレーのフリース、手に買い物袋。袋の口からネギの青い部分が出ている。 「大丈夫か」とスペイン語で言われる。あなたが頷くと、男はネギを顎でしゃくって見せた。「今日のは細い。市場の最後の分だ」。特に説明しているわけではない。独り言に近い。 男の名はエウセビオ・マルティネス、六十三歳。定年退職してから二年が経つと、歩きながら言う。もと市の職員だったらしい。妻のマリソルは午後に働きに出ている。娘は独立して今はログローニョにいる。 話しながら三分ほど歩いて、七階建ての集合住宅の前に着く。一九七〇年代の建物。エントランスのブザーパネルに数字が並んでいる。鍵を差し込んで扉を押す。エレベーターは四人乗り。壁にプラスチックの鏡がついていて、あなたの顔が縦に少し歪んでいる。 五階の廊下。リノリウムの床。一番奥の扉の前で男が鍵を出す。扉には郵便受けのスリット、その縁が金属で、金属の端が少し錆びている。 部屋の中。玄関から直接リビングに繋がる間取り。左壁にコートかけ。その下に靴が四足、不規則に並んでいる。テレビが壁掛けで、音を消したまま映像が動いている。ニュースらしい。ソファに薄い毛布が一枚かかっている。 台所はリビングの奥、仕切りのない続き間。エウセビオが袋からネギを取り出して洗い始める。蛇口の水は勢いが強く、シンクに当たって跳ねる。ネギの根に土がついていて、それが排水口に流れていく。 鍋がコンロにある。昨日からの鍋らしい。エウセビオが蓋を取ると、湯気が一瞬で天井に向かう。白い湯気の中に、焦げではない何か、塩と植物と、脂の溶けた匂いが混じっている。 ネギを切り始める。包丁の音が一定ではない。軸の部分は輪切り、青い先端は少し斜めに。切ったそばから鍋に入れる。 引き出しから乾燥したものを取り出した。形は平たく、楕円。あなたには判別できない。エウセビオがそれを水に浸けてあったボウルから別のものも取り出す。白っぽく、繊維が見える。鍋に加える前に、指で少し解す。 鍋の音が変わった。さっきより重くなった。 椅子を出される。木製で、背もたれがまっすぐ。テーブルクロスはない。テーブルの木目がはっきり見える。パンが半分の塊でテーブルに置かれる。ナイフは刃が厚い。 エウセビオが鍋をテーブルの中央に置く。スープではなく、固形物が多い。白と緑と、底の方に沈んでいる塊。器を二つ出して、椅子を引いて、向かいに座った。 「冷める前に」と、そう言ったと思う。あるいは別の言葉だったかもしれない。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Porrusalda / ポルサルダ(ネギとタラのスープ)

この料理について

ポルサルダはバスク語で「ネギの汁」を意味し、アラバ県を含む山側バスクで日常的に食べられる家庭のスープ料理。特別な日ではなく、週の平日に鍋ひとつで作るものとして位置づけられる。干し鱈(バカラオ)を加えるバージョンが最もよく見られるが、干し鱈なしで野菜だけのバージョンも存在する。


材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
干し鱈(バカラオ)※塩抜き済み200gKALDI、ハラール系食材店、Amazon塩漬け干し鱈。塩抜きに24〜48時間かかる
ポロネギ(プエロ)または長ネギ3〜4本スーパー(長ネギで代用可)ポロネギが本来。長ネギだと風味がやや淡白になる
ジャガイモ3〜4個(約400g)スーパーメークインまたは男爵
ニンジン1本スーパー
ニンニク2片スーパー
オリーブオイル大さじ2スーパー
水またはうっすらした野菜ブロス1〜1.2リットル干し鱈の塩抜き水は使わない
適量干し鱈の塩分があるため、最後に確認してから加える

アレルゲン:魚(タラ)


ソース照合メモ

食材現地語ソース(es/eu)英語・日本語ソース日本語ソース判定
ポロネギ(プエロ)◎ 複数に登場◎(丸山久美著、note記事)必須
干し鱈(バカラオ)◎ 代表的バージョン必須(野菜のみバージョンも存在)
ジャガイモ必須
ニンジン◎ 多数必須
ニンニク必須
オリーブオイル必須
トマト一部ソースのみオプション(地域差あり)
パプリカパウダー(ピメントン)少数ソースに登場オプション

この料理を成立させる核

  • ポロネギ(または長ネギ)を大量に使う:これがスープの甘みと名前の由来。ネギが少ないとポルサルダではなくただの野菜スープになる
  • 干し鱈(バカラオ)は必ず塩抜きしてから加える:塩抜き不足のまま加えると全体が塩辛くなり修正不能になる。塩抜きは冷蔵庫で24〜48時間、水を数回換える
  • バカラオの繊維を手で解してから加える:ほぐさずに加えると身がかたまり、スープに旨味が行き渡らない
  • 出汁を別に取らない:バカラオとネギとジャガイモ自体がスープを作る。市販のコンソメや魚介ブロスを多量に加えると風味が変わる
  • 煮すぎない:ジャガイモが煮崩れる手前で火を止める。ポルサルダはポタージュではなく、具材が形を保ったスープ

作り方

  1. 干し鱈の塩抜き(前日〜2日前から):干し鱈を冷水に浸け、冷蔵庫で24〜48時間。6〜8時間ごとに水を取り替える。身が白っぽく戻り、指で押すと少し弾力が出れば完了。水気を拭き取り、大きめにほぐしておく。
  2. 野菜の下準備:ポロネギ(または長ネギ)を2〜3cm幅の輪切りにする。ジャガイモは皮をむき、一口大に切る。ニンジンは1cm厚の輪切り。ニンニクは薄切り。
  3. 炒める:厚手の鍋にオリーブオイルを入れ、中火にかける。ニンニクを加え、30秒ほど炒める。ポロネギを加え、しんなりするまで5〜7分、中火〜弱火で炒める。焦がさない。
  4. 水を加えて煮る:ニンジンとジャガイモを加え、水(またはごく薄い野菜ブロス)を注ぐ。中火で沸騰させ、沸いたら弱火にして蓋をし、15分煮る。
  5. 干し鱈を加える:ほぐした干し鱈をスープに加え、さらに10〜15分、弱火で煮る。ジャガイモに竹串がすっと入れば完了。
  6. 塩の確認:干し鱈から塩分が出ているため、最後に味を見て、必要なら塩を少量加える。

食べ方

深皿によそい、厚切りのパン(田舎パンやバゲット)を添える。スープをパンに浸しながら食べるのが家庭での通常の食べ方。オリーブオイルを仕上げに少量たらすこともある。前菜ではなく、これ一皿が昼食のメインになることが多い。


補足

失敗しやすいポイント

  • 干し鱈の塩抜きが不十分なまま調理すると、全体が塩辛くなり修正がほぼ不可能。塩抜きに時間をかけることが最重要
  • ジャガイモを長く煮すぎるとスープが濁り、食感が失われる

代用提案

  • 干し鱈が入手できない場合:生の甘塩タラを使うことは可能。ただし旨味の深みが異なり、風味は淡白になる。生タラを使う場合は煮込み時間を5〜8分に短縮する
  • ポロネギが入手できない場合:長ネギで代用可。量はポロネギと同量か、やや多め。甘みが若干弱くなる

時短バージョン

  • 干し鱈の代わりに市販の塩抜き済み干し鱈(KALDI等で入手可能なもの)を使えば当日調理が可能

翌日の楽しみ方

  • 翌日は一晩でジャガイモにスープが染み込み、全体の味が均一になる。温め直すときは弱火でゆっくり。沸騰させると鱈の身がパサつく
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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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