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あなたは太平洋の中央(緯度 22.9°N、経度 178.7°W)、フィジー諸島北西の公海上に流れ着いた。最寄りの集落は、フィジー共和国ヴァヌアレヴ島北西部の漁村集落群(ヴィティレヴ島北部沿岸の小村落)。以下はその漁村集落で観察した暮らし。 - 国:フィジー共和国(Republic of Fiji) - 地域:ヴァヌアレヴ島北西部沿岸、小規模漁村集落 - 気候・地形:熱帯性気候(年間平均気温26〜30℃)。サイクロン帯に位置し、11月〜4月は高温多湿。コーラルサンドの浜と内陸のマングローブ帯が入り組む低地。島の北西側は雨陰になりやすく、南東の風上側より乾燥する季節がある。 - 暮らしの基本:イタウケイ(先住フィジー人)の村落単位の共同生活が基盤。コプラ(乾燥ヤシ)と漁業が主な収入源。キャッサバ・タロイモ・ヤムイモが主食。市場への交通は不定期の船便に依存。電力は発電機または太陽光パネルで部分的に供給。 ---
砂利道の終わりに、海が出てくる。 コンクリートではない。茶色い砂利と、踏み固められた赤土が交互に。道の端にはキャッサバの葉が並んでいて、風が吹くたびに幅の広い葉が半回転する。葉の裏が白い。ヤシの木が五、六本、斜めに立っている。根元の方向がばらばらだ。 浜に近い側の家が目に入る。ベニヤ板とトタン屋根。外壁に緑色のペンキが塗られているが、足元から三十センチほどは塩と湿気で膨れ上がっている。軒下に漁網が吊るしてある。網目に光が当たって影がコンクリートブロックの基礎に格子を作っている。 道の端で男が膝をついて何かをしている。ラタ、四十二歳。漁師で、農作業も兼ねる。右手にマチェーテ。キャッサバの根を地面から引き抜いている途中だった。根が抜けた瞬間に土のにおいが来る。発酵しかけた有機物の臭みと、濡れた粘土が混じっている。 あなたが立ち止まる。ラタが顔を上げる。何か言ったが、風と波音で半分聞き取れない。「ケレケレ」という音だけ聞こえた。手が家の方向を向く。 木製の段差を二段上がると、ベランダに出る。板が一枚たわむ。奥のドアは開いていて、薄暗い室内から扇風機の音が出てくる。プラスチック製の羽が当たる、硬質な周期音。 室内は四畳半ほど。床はリノリウム張りで、青い花柄が色褪せている。テレビが一台、壁際に。画面は消えている。その横にカレンダーが画鋲で留めてある。めくられていないページが三枚ほど束になっている。プラスチックのパイプ椅子が三脚、テーブルを囲んでいる。テーブルクロスは市松模様の布で、縁にボールペンの跡がある。 台所は別棟ではなく、居間の奥に直結している。薪ではなくガスコンロが一口。ガスボンベが壁に立て掛けてある。コンロの上に直径四十センチほどの鍋が乗っている。蓋が少しずれていて、蒸気が白く細く出ている。 ラタの妻、マリア(三十八歳)が台所に立っている。Tシャツとサロンスカート。足は裸足で、タイルの床を踏む音が乾いている。何かをかき混ぜている。木べらが鍋の縁に当たるたびに、短い金属音。 鍋から出てくるにおいがある。脂肪分の多い何かが加熱されている。ヤシの実系の甘みのある脂のにおいと、魚の出汁のにおいが重なっている。塩気は強くない。 子どもが一人、外から駆け込んでくる。八歳前後、男の子。泥のついたサンダルのまま玄関段差を越えようとして、マリアが振り返らずに何か言う。男の子は一度止まり、サンダルを脱いで、また走り込む。扇風機の前に座り込んで、ものすごい勢いで顔を近づける。羽の音の周期が少し乱れる。 テーブルに皿が二枚運ばれてくる。白いプラスチック皿。その後ろにもう一枚。 ラタが椅子を引く。あなたに座るよう手で示す。マリアが鍋を運んでくる。蓋を取る。 湯気が白く立つ。 白濁した液体の中に、薄桃色の塊が見える。塊の周りを何か葉のようなものが沈んでいる。液体の表面に脂の層が薄く張っている。鍋の縁に水滴がついている。 ラタが椅子に座る。マリアが木べらで塊を皿に取り分ける。子どもがテーブルに両肘をつく。マリアが何か言う。子どもが肘を外す。 あなたの皿に液体が注がれる。白い脂の渦が皿の中心に向かってゆっくり動く。 ラタが手を合わせる。三語ほど口に出す。マリアと子どもも目を閉じる。 あなたもスプーンを置く。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Ika Vakalolo / ヤシミルク煮魚

この料理について

ヤシミルクで魚を煮るこの料理は、フィジーのイタウケイ(先住フィジー人)の家庭で週に複数回作られる平日の常食である。沿岸の漁村では、その日に揚がった魚とヤシの実さえあれば完成する。村の宴ではなく、家族の昼食や夕食として食卓に並ぶ。

材料(3〜4人分)

食材分量日本での入手備考
白身魚(スナッパー、タラ、ブリ等)600〜700g(切り身または一尾)スーパーで入手可現地ではサワラ、マグロの若魚、タイ類を使用。皮付きの切り身が望ましい
ココナッツミルク(無糖缶詰)400ml(1缶)スーパー、KALDI、業務スーパーこれが料理の核。省略不可
玉ねぎ1個(薄切り)スーパーで入手可
トマト中2個(くし切り)スーパーで入手可省くと酸味と色が失われる
チリ(青唐辛子または赤唐辛子)1〜2本スーパー、業務スーパー辛みは控えめ。種を取れば穏やかになる
青ネギまたはリーフオニオン(葉部分)2〜3本スーパーで入手可現地ではスプリングオニオンに近い品種
小さじ1〜1.5スーパーで入手可
サラダ油(またはヤシ油)大さじ1ヤシ油はKALDI・富澤商店ヤシ油の方が香りが強く出るが、サラダ油で代用可
100〜150mlヤシミルクの濃度調整用

アレルゲン:魚(白身魚)、ヤシ(木の実)※ ヤシはナッツアレルギーの方は注意

ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(フィジー語/英語フィジー系)英語汎用ソース日本語ソース判定
ヤシミルク(ロロ)使用複数のフィジー系レシピに必須として記載太平洋諸島料理の英語文献で一致太平洋料理の紹介記事で確認必須
白身魚(生)フィジー系ブログ・動画で確認英語レシピ複数で確認一部記事で確認必須
トマトフィジー系レシピで頻出英語版でも多数確認あり必須
玉ねぎフィジー系で頻出英語版で確認確認あり必須
青唐辛子フィジー系レシピで頻出(辛みは控えめ)英語版で確認記載あり必須(辛さ調整可)
青ネギフィジー系で多数確認英語版で確認確認あり必須
生姜一部フィジー系レシピのみ一部の英語レシピ記載なしオプション
ライム果汁仕上げに使う例が一部一部のみ記載なしオプション

この料理を成立させる核

  • ヤシミルク(ロロ)で煮ること——ここを外すと別の料理になる。水やだしで代用した時点でこの料理ではない
  • 魚は煮すぎない——ヤシミルクが沸騰を続けると分離し、香りが飛ぶ。弱火でゆっくり火を入れる
  • トマトと玉ねぎを魚と同時に煮る——この二つがヤシミルクの甘みに酸味と深みを与える。別添えにしない
  • 調味は塩のみ——醤油・みりん・砂糖は加えない。これを加えると料理の性格が変わる
  • 加熱は沸かしすぎない——ヤシミルクは沸騰させ続けると油水分離する。表面がふるふると動く程度(80〜85℃)を保つ

作り方

  1. 魚の切り身に塩小さじ0.5をまぶし、10分おいて水気を拭く
  2. 鍋にサラダ油(またはヤシ油)を入れ、中火で薄切り玉ねぎを2〜3分炒める。透き通ればよい、色をつけない
  3. トマトと青唐辛子を加え、玉ねぎと混ぜながら1〜2分加熱する。トマトが少し崩れ始める程度
  4. ヤシミルク400mlと水100mlを加え、弱中火にする。表面が小さくふるふると動く状態(沸騰ではない)になるまで温める
  5. 魚の切り身を鍋に並べ入れる。液体が魚の半分〜三分の二まで浸かる量を目安とする
  6. 蓋をして弱火で10〜15分。魚に箸を刺してスッと入れば火が通っている。鍋を激しく揺らさない
  7. 残りの塩で味を整える。青ネギを手でちぎって散らし、火を止める

食べ方

キャッサバの蒸し煮、または炊いた白米と合わせて食べる。ヤシミルクのスープごとすくって皿に盛り、キャッサバに浸けながら食べるのが現地の一般的な食べ方。スプーンか手食。

補足

  • 失敗しやすいポイント:ヤシミルクを強火で沸騰させると脂が分離して白湯のようになる。弱火厳守
  • 代用提案:ヤシミルクを「豆乳(無調整)」で代用すると脂分が大幅に減り、あっさりした仕上がりになる。ヤシの甘い香りは出ないが、味の骨格は近くなる
  • 代用してはいけないもの:ヤシミルク自体の代用は可だが、「ヤシミルクなし」では別料理になる
  • 時短バージョン:玉ねぎを炒めず、全材料を水と一緒にそのまま鍋に入れて弱火にかける。炒め工程を省くと甘みが薄くなる
  • 翌日:冷蔵保存翌日は脂が固まる。湯煎で温め直すと元の状態に近づく。電子レンジ加熱は油水分離しやすいので弱出力で
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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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