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- 国:ロシア連邦 - 地域:モスクワ州ミチシ市街地区(Мытищи)。モスクワ北東約20km、環状道路(МКАД)の外側に位置する衛星都市 - 気候・地形:大陸性気候。冬は氷点下15〜20℃まで下がり、積雪は12月〜3月。夏は短く20〜25℃。地形は平坦で、針葉樹と白樺が混在する森林帯が市街地に隣接する - 暮らしの基本:人口約25万人の住宅都市。モスクワへの通勤者が多く、ソ連期に建設されたパネルビル(フルショフカ・ブレジネフカ)が住宅の大半を占める。中心部に市場、スーパー、公園。住民の多くはモスクワ通勤圏の会社員・工場労働者・教師層 ---
舗装の割れ目から草が出ている。アスファルトの継ぎ目に砂と枯れ葉が挟まっている。 あなたの前に五階建てのパネルビルが三棟、等間隔で並んでいる。外壁はかつて黄色だったと思われるが、今は薄汚れた生成り色をしている。エントランスのスチールドアに鍵穴が二つ。横の郵便受けの一つは扉が外れたままになっている。 十一月の午後三時。光の角度がすでに低い。空気は乾いて冷たく、鼻の奥が少し痛い。地面には昨日の雪が少量残り、日の当たらない日陰でだけ白い。 あなたはミチシ市場の近くの路地にいた。市場の入口で、袋を両手に提げた五十代くらいの女性がビニール袋のとめ方を直している。袋の中に玉ねぎの皮が見えた。足元に猫が一匹いて、女性を見上げている。 女性が顔を上げてあなたを見た。何か言った。聞き取れない。もう一度言った。「Вы не местный?」らしかった。あなたが首を傾けると、彼女は顎でビルの方向を示した。 エレベーターは四人乗り、金属の扉に傷がついている。三階で止まった。廊下の照明は蛍光灯一本、端が暗い。ドアの前に小さなマットが敷いてあって、その上にビニールサンダルが二足。 ドアを開けた先の空気に、玉ねぎとバターの混ざったにおいがある。 「Проходите, проходите」と彼女が言った。 名前はリュドミラ。職業は地域の小学校の数学教員。五十四歳。夫のアレクセイはトラックの運転手で、週の半分は不在。娘が一人いるが、すでに別の市に住んでいる。 玄関でブーツを脱ぐ。フローリングではなくリノリウムで、年季が入って角が浮いている。壁に外套掛け、その下に傘立て。傘が三本と、スキー用のストックが一本。 台所は四畳ほど。窓が一つ、外に向いている。窓枠の内側に鉢植えが四つ並んでいて、うち一つは枯れている。ガスコンロは二口。コンロの横に油が染みた木製のまな板。 鍋が二つかかっている。大きい方の鍋から湯気が細く上がっている。リュドミラはコンロの前に立って木べらで中をかき混ぜた。かき混ぜるたびにじゅわ、という小さな音がした。 あなたは椅子に腰を下ろした。座面がビニール張りで、冷たい。 テレビの音が台所まで届いている。天気予報か何かの番組らしい。 突然、廊下側から男の怒鳴り声がした。隣の部屋だった。壁を隔てた向こうで誰かが電話をしている。リュドミラは振り返らなかった。木べらを動かしている。 別の鍋から細かい泡が立ち始めた。リュドミラがそちらの火を少し絞った。 食卓はコンロから一メートルほどのところにある。テーブルクロスはなく、代わりにビニールマットが敷いてある。コップが二つ、パンが数切れ皿に乗っている。黒いライ麦パンと白い丸パンが混在している。 大きな鍋の中身がよそわれた。深皿に、深い赤紫色の液体。表面に油の膜がうっすら光っている。その上に白い塊がのせられた。スプーンで器に落とされた、くぼんだかたちのまま乗っている。 もう一品、別の皿が置かれた。 リュドミラが自分の分をよそって、向かいに座った。椅子の脚がリノリウムの床で小さく鳴った。 彼女はスプーンを手に取り、あなたの方を見た。 「Ешьте」と言った。 ---
今日のふらりごはん

ボルシチ

Борщ / ボルシチ

この料理について

ビーツを主体とした赤紫色のスープで、ロシア・ウクライナを中心とする旧ソ連圏の家庭で広く作られる。モスクワ近郊の家庭では日常の夕食スープとして登場し、作り置きして翌日以降に食べることが多い。ウクライナ起源の料理だが、現在はロシア家庭でも固有のレシピが定着しており、家によって具材・煮込み時間・酸味の強さが異なる。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
牛スネ肉または牛バラ肉400gスーパー全般骨付きがあればより出汁が出る
ビーツ(生)中2個(約300g)成城石井、KALDI、輸入食材店、Amazon缶詰でも可(後述)
キャベツ1/4個(約250g)スーパー全般
じゃがいも中2個(約250g)スーパー全般
玉ねぎ1個スーパー全般
にんじん1本スーパー全般
にんにく2〜3片スーパー全般
トマトペースト大さじ2スーパー全般ホールトマト缶でも可
酢(白またはワインビネガー)大さじ1〜2スーパー全般ビーツの色を保つ
植物油(サラダ油可)大さじ2スーパー全般
適量スーパー全般
黒こしょう少々スーパー全般
ローリエ2枚スーパー全般
1.5〜2L
サワークリーム適量成城石井、KALDI、富澤商店これは省かない(後述)
ディル(生または乾燥)適量成城石井、KALDI、Amazonなければパセリで代用、風味は変わる

アレルゲン:乳製品(サワークリーム)。牛肉を使用。

ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(ru)英語ソース日本語ソース判定
ビーツ言及あり(борщ全般)共通デリッシュキッチン、eriFW必須
牛肉(骨付き含む)共通共通eriFW(脂が浮く)必須
キャベツ共通共通デリッシュキッチン必須
じゃがいも共通共通デリッシュキッチン必須
サワークリーム(仕上げ)共通共通eriFW(省き忘れに言及)必須・省かない
トマトペースト共通共通デリッシュキッチン必須
酢(色止め)現地語ソースで強調共通eriFW必須
ディル現地語ソースに頻出共通一部推奨(地域固有)
ビーツを炒めてから加える現地語強調共通eriFW動画言及必須工程
3日目が美味しいeriFW(明確に言及)補足情報

この料理を成立させる核

  • ビーツを生から使い、炒めて(または蒸し炒め)スープに加えること。最初から鍋に生のまま入れると色が抜ける
  • 酢を炒めたビーツに加えること。これをしないと煮込む間に赤紫色が褪せて茶色くなる
  • 牛肉でしっかりとした出汁スープを作ること。この出汁がボルシチの骨格になる。コンソメキューブだけでは別物になる
  • サワークリームを食べる直前に乗せること。混ぜ込まず、各自がスープに溶かしながら食べる。これを省くと本来の味にならない
  • ビーツ、キャベツ、じゃがいもの三つが揃っていること。どれかを省くと構成が崩れる

作り方

  1. 出汁を取る:牛肉を水(1.5〜2L)から入れ、強火で沸騰させる。灰汁をすくい取り、ローリエを加えて弱火で60〜90分煮る。肉を取り出し、食べやすい大きさにほぐしておく。スープは漉す
  2. 野菜を切る:ビーツは皮をむいて千切り(マッチ棒状)。玉ねぎとにんじんは薄切り。キャベツは細切り。じゃがいもは2cm角。にんにくはみじん切り
  3. ビーツを炒める(色止めが要):フライパンに植物油を熱し、ビーツを中火で3〜4分炒める。ここで酢(大さじ1〜2)を加えてさらに1〜2分炒める。トマトペーストを加えて全体をなじませ、火を止める
  4. 玉ねぎ・にんじんを炒める:別のフライパン(またはステップ3の後に同じフライパン)で玉ねぎとにんじんを中火で7〜8分、しんなりするまで炒める
  5. スープに具材を加える:1の牛肉出汁を中火で沸かし、じゃがいもを加えて10分煮る。次にキャベツを加えて5分。炒めたビーツ、炒めた玉ねぎ・にんじん、ほぐした牛肉を加える
  6. にんにくを加えて仕上げる:みじん切りにんにくを加え、塩・黒こしょうで味を調える。弱火で10〜15分、全体の味がなじむまで煮る。火を止め、蓋をして10分蒸らす
  7. 盛り付け:深皿によそい、サワークリームを一さじ乗せる。あれば刻んだディルを散らす

食べ方

黒いライ麦パン(チョールヌイ・フレープ)または白い丸パンと一緒に食べる。サワークリームをスプーンでスープに少しずつ溶かしながら食べるのが一般的。作った翌日以降、冷蔵庫で保存したものを温め直したものが家庭では好まれる。

補足

  • 失敗しやすいポイント:ビーツに酢を加えずに煮込むと色が褪せる。最初からビーツを生で入れると同様。炒めてから酸を加える工程を省かない
  • ビーツの代用:缶詰ビーツ(水煮)を使う場合は炒め工程を短縮できるが、色がやや薄くなる。酢は同量入れること。生のものと比べて甘みが弱く、スープの深みがやや減る
  • サワークリームの代用:クレームフレーシュまたは無糖の水切りヨーグルト。生クリームだと酸味が消えて風味が変わる
  • 時短バージョン:圧力鍋で牛肉を加圧20〜25分→自然放圧。出汁取り時間を大幅短縮できる。ビーツの炒め工程は省略しない
  • 翌日の楽しみ方:冷蔵保存して翌日・翌々日に温め直す。スープが煮詰まり、ビーツの甘みと酸味が落ち着いて味が変わる。eriFWの記録では「3日目が最高」と明記されている
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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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