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- 国:アメリカ合衆国 - 地域:ハワイ州ホノルル(オアフ島南部、カリヒ〜パウナルー周辺の住宅地) - 気候・地形:熱帯性気候。年間を通じて気温25〜32℃。北東貿易風が吹き、島の北側は雨が多く、南部は比較的乾燥。珊瑚礁と山地の間に市街が広がる。 - 暮らしの基本:多民族都市。ネイティブハワイアン、日系、フィリピン系、サモア系、中国系、白人系などが混住し、食文化も重なり合っている。「プレートランチ」文化が根付き、白飯+おかず+マカロニサラダという組み合わせが家庭でも外食でも基本形。スーパーはTimes、Don Quijote、Foodland。フィリピン系や日系の食材店が各地区にある。 ---
午後三時の日差しが、アスファルトから逆向きにぶつかってくる。 カリヒの裏通り。幹線からひとつ入ると、道幅が急に狭くなる。左側にフェンス。錆びた金網に、プラスチックの植木鉢がひとつ、針金で括られている。赤い花がついているが、花びらの縁が褐色に枯れかけている。右側には平屋のコンクリートブロック積みが連なる。外壁が白から黄色に経年変化した色。窓に金属製の面格子。 地面に子どもの靴が一片、転がっている。右足だけ。 前方で、小型のピックアップトラックが縁石沿いに止まっている。荷台に犬用のキャリーケースが積んである。運転席の窓が開き、腕が一本出ている。肘の内側が日焼けで二トーンに分かれている。 あなたはそのトラックの横を通り過ぎる。窓の中のラジオが言葉を出しているが、聞き取れない。フィリピン語か、タガログ語か、あるいは別のものか。わからない。 民家の軒先にプラスチックの椅子が三脚、出してある。そのうちの一脚に五十代半ばの男が座っている。ベージュのタンクトップ、グレーのショートパンツ、サンダル。足の甲が厚い。顎の下に白い無精髭が均一に生えている。 目が合う。 男が片手を軽く上げる。 「どこから?」 「日本から。」 「ああ。」と男は言う。「ちょっと入る?妻がちょうどやってるから。」 名前はロミオといった。フィリピン・パンパンガ出身、ハワイに来て二十三年。現在はホノルル港の物流会社に勤めている。妻のレリングは在宅でネイル関係の仕事をしているが、今日は休みだった。娘がふたりいる。上は十七、下は十二。 玄関のドアは引き戸ではなく内開きの木製ドア。塗装が扉の下端だけ剥げている。室内に入ると、空調の音が先に来る。天井の四角いユニットエアコンが、低い音で回っている。床はビニールタイル張り。白とベージュの斑模様。 左手にリビング。ソファが二脚。一脚には洗濯済みと思われるタオルが積まれている。壁に液晶テレビ。画面はついているが音は消されている。アメリカのトークショーが映っている。棚にフィリピン人の聖人の小さな像がひとつ、その横に子どもの運動会らしい集合写真。 台所から音がしている。 金属が金属を叩く音。油が何かを受け入れる音。 台所に入ると、レリングが鍋の前に立っている。五十代前半。髪を後ろで束ね、花柄のTシャツ。右手に木べらを持ち、左手は鍋の縁を掴んでいる。コンロは四口のガスコンロ。一番右の口だけが使われている。鍋は深い、黒い鍋。 匂いが鼻の奥に入ってくる。酸味のある何か。酢か、柑橘か。それに脂。何かの肉が煮えている匂い。醤油と思われる色の液体が鍋の中に見えるが、量が多い。 「ちょうど良かった。今日はこれ。」とレリングは振り返らずに言う。 外から音が入ってくる。どこかの家の庭で、ホースが地面を叩く音。それが止む。子どもの声が短く上がって消える。 テーブルは折り畳み式のプラスチック製。椅子四脚。テーブルクロスなし。あなたの目の前に白い皿と、白飯のボウルが置かれる。 鍋がコンロから直接テーブルに来る。鍋敷き代わりに折り畳んだ新聞紙が先に置かれる。 蓋が取れる。 液体の表面に脂の膜がある。肉と思われる固形物が沈んでいる。色は濃い茶。湯気が直線的に上がって、天井のエアコンの風に流れて曲がる。酸の匂いが濃くなる。月桂樹と思われる乾燥した葉が一枚、浮いている。 ロミオが「どうぞ」と言いながら椅子を引く。 レリングが大きなスプーンで肉をあなたの皿によそう。汁が白飯に少し染みる。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Adobo / アドボ(フィリピン家庭のポーク&チキンアドボ)

この料理について

アドボはフィリピン全土の家庭で日常的に作られる煮込み料理で、酢と醤油を主体とした煮汁が特徴。ホノルルのフィリピン系コミュニティ(カリヒ地区などに多く居住)では、移住後も変わらず週の普段の夕飯として作り続けられている。祭事の料理ではなく、月曜日の晩ごはんの料理。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
鶏もも肉(骨つき)600gスーパー全般骨なしでも可だが旨味が落ちる
豚バラ肉(ブロック)300gスーパー全般3〜4cm角に切る
白米酢大さじ6(約90ml)スーパー全般フィリピンの白酢代用。米酢で可
醤油(フィリピン系)大さじ4KALDI、業務スーパー、Amazonトヨマン社のがあれば理想。なければ日本の薄口醤油
にんにく6〜8片スーパー全般潰すだけでよい、みじん切り不要
月桂樹の葉(ローリエ)3〜4枚スーパー全般乾燥品で可
黒粒胡椒小さじ1スーパー全般粗挽きより粒のままが本来の形
120〜150ml煮詰まり具合で調整
サラダ油大さじ1スーパー全般仕上げの炒め工程用

アレルゲン:大豆(醤油)、小麦(醤油。グルテンフリー醤油使用で回避可)

ソース照合メモ

要素現地語ソース(タガログ語・フィリピン英語)英語ソース日本語ソース判定
酢+醤油の煮汁必須(サークの種類は地域で変わる)必須必須必須
にんにく(潰す)必須必須記載あり必須
月桂樹の葉多数ソースで明記必須記載あり必須
黒粒胡椒必須(粗挽きより粒が本来)多数に記載記載あり必須
鶏+豚の混合一般的な家庭版記載あり(chicken adobo単独も多い)記載あり家庭版の標準形
仕上げに一部を取り出して炒める現地語ソースに頻出(パチパチ音が出るまで)記載あり少数現地家庭のこだわり
ヤシ酢(Sukang Paombong)使用フィリピン現地では重視言及ありほぼ記載なし日本では米酢で代用

この料理を成立させる核

  • 酢と醤油の比率が骨格。酢が多すぎると酸っぱくなる、醤油が多すぎると塩辛い。大さじ6:4が家庭の基準点
  • にんにくは潰すだけ。みじん切りにして溶かすのはこの料理ではない
  • 黒粒胡椒は粒のまま入れる。香りが出て、食べるときに時々当たる。粉胡椒に変えると別の料理になる
  • ローリエは必須。これを省くとアドボの香りが成立しない
  • 仕上げに肉を取り出し、少量の油で表面をカリッとさせる(省略している家庭も多いが、この一手間が肉の食感を変える)
  • 白飯に汁をかけて食べることが前提の濃い味付け。汁は食べ切る

作り方

  1. 鶏もも肉は関節で切り分け、豚バラは3〜4cm角に切る。水気を拭く。
  2. 鍋に肉、潰したにんにく、醤油、酢、水、黒粒胡椒、ローリエを入れる。この時点では火をつけない。10分置いて馴染ませる(時間があれば30分)。
  3. 中火にかける。沸いたらアクを取る。弱めの中火に落として、蓋をずらして乗せ、30〜35分煮る。途中で一度ひっくり返す。
  4. 肉が柔らかくなったら蓋を外し、中火に戻して煮汁を半量程度まで煮詰める。約10分。
  5. 肉を鍋から取り出す。別のフライパンにサラダ油を大さじ1熱し、強火で肉の表面をカリッとするまで2〜3分炒める(焦がさない程度に)。
  6. 炒めた肉を元の鍋に戻し、残った煮汁と絡める。ローリエと粒胡椒を除いて皿に盛る。白飯の横に煮汁をたっぷりかける。

食べ方

白飯の上に肉を乗せ、煮汁を直接飯にかけて食べる。副菜なしでも成立する。フィリピン系家庭では他に野菜炒めやスープが並ぶこともあるが、アドボ単体と飯で一食になる。翌日以降は酢の効果で味が落ちにくく、むしろ馴染んで旨くなることが多い。

補足

  • 失敗しやすいポイント:煮詰める前に蓋をしたまま火を通し続けると汁が多く残りすぎる。蓋を外して煮詰める工程を省かない
  • 酢の代用について:白ワインビネガーでも代用可能だが、米酢より酸味が鋭くなる。風味差として「フルーティさが消え、すっきりした酸味になる」
  • 醤油の代用:日本の濃口醤油でも可。フィリピンの醤油より塩分が強めなので大さじ3〜3.5に減らして調整する
  • 時短バージョン:漬け込みを省略して即煮ても成立するが、肉の中心まで味が入りにくい。圧力鍋使用なら煮込み20分に短縮できる
  • 翌日の楽しみ方:冷蔵保存した翌日、汁ごと温め直す。4〜5日は味が続く。アドボのほぐし肉をチャーハンに入れるのはホノルルの家庭でも見られるアレンジ
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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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