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- 国:中国 - 地域:北京市西城区(首都功能核心区)。故宮の西側に接する旧市街エリア。胡同(路地)が残存しているが、再開発が進んでいる。 - 気候・地形:温帯モンスーン気候。夏は高温多湿、冬は乾燥した寒冷。華北平原の北端、標高約40〜50m。黄砂が飛ぶ春と、暖房が入る11月以降の石炭・集中暖房の時期が特徴的。 - 暮らしの基本:集合住宅(楼房)と古い平屋型合院が混在。住民の多くは単位(職場)に紐付いた歴史を持つ古参市民と、流入した地方出身者。市場(菜市場)が各ブロックにあり、朝と夕方に買い物が集中する。石炭暖房から集中暖房への移行期を経た地区で、冬の室内は乾燥している。 ---
十一月初旬。午後四時。 西四の交差点から一本入った路地に、あなたは立っている。アスファルトが継ぎはぎで補修されていて、端のほうは古い青石が顔を出している。北から風が入ってきて、それが建物の間で向きを変える。体感温度は五度前後。首筋に当たる空気が冷たく乾いている。 左手の壁は灰色のモルタルで、高さ二メートルほど。上に瓦が乗っている。右手には赤いシャッターが下りた小さな店があって、そこに手書きの字でなにかが書いてある。読めない。自転車が三台、鍵なしで立て掛けてある。 電線が頭上を三本、東西に走っている。そのうちの一本に、洗濯物がある。薄い水色のシャツと、ベージュの長ズボン。風でゆっくり動いている。 あなたは前に進む。地面に、キャベツの外葉が一枚落ちている。 — 菜市場は路地の途中にある。テントの屋根の下に、折り畳みテーブルを並べた売り場が続いている。豆腐が白いプラスチックのトレーに乗っている。その隣に、白菜が積み上げてある。高さは腰のあたりまである。脇に置かれた秤が赤い。 売り手の男性が、箱から何かを取り出している。あなたのほうを見て、何か言う。聞き取れない。あなたは首を振る。男性はまた箱の中を見る。 隣のスペースで、年配の女性がトマトを一個ずつ確かめている。トートバッグが地面に置いてある。バッグの口から大根の葉が出ている。 あなたがテーブルの端を避けて通ろうとしたとき、後ろから男の子が走ってきて、あなたの荷物に当たった。男の子は立ち止まらない。「妈!」という声だけが後方に残る。 女性が振り返った。そのトマトを持ったまま、あなたに向かって何か言う。北京の発音で、rの音が多い。あなたが「対不起」と言うと、女性は笑った。トマトを袋に入れる。「你来哪儿的?」と言った。聞き取れた。 その後どうなったかは、うまく説明できない。バッグを持ってくれる、という身振りがあった。「吃饭没有?」という言葉があった。 — 女性の名前はリー・シウチン、五十七歳。夕方に買い物をして帰るところだった、ということは後でわかった。夫は退職していて家にいる、ということも。 建物に入る。エレベーターのない五階建ての三階。階段は薄暗く、コンクリートが剥き出し。踊り場に、段ボール箱が二つ積んである。ガスメーターらしい青い計器が壁に付いている。 部屋のドアを開けると、暖房の空気が出てくる。集中暖房の金属パイプが窓の下に走っていて、その上に手袋が一枚、乾かしてある。部屋の奥に男性が座っていて、テレビがついている。音量が大きい。 台所は部屋の右側にある。幅は一メートル半程度。シンクと、二口のコンロと、壁のタイルが白。そのタイルに、油の飛んだ跡が点々としている。コンロの脇に、ラードが入った容器がある。フタは半分開いている。 シウチンが買ってきた白菜を流しで洗う。水の音。切る音。まな板は厚い木製で、表面に無数の刻み目がある。 鍋を火にかける。油の音が始まる。 生姜の何枚かを鍋に入れる。音が変わる。鍋から白い蒸気が出る。つんとした、しかし穏やかな匂いが台所から出てくる。 豚肉の塊が、まな板の上で斜めに切られていく。白い脂の部分がある。鍋の音が大きくなる。 あなたは台所の入り口に立ったまま見ている。シウチンは手を止めない。何かを棚から取り出す。ビンの中が黒い。 — テーブルは四人掛け。油布のテーブルクロスに、花の模様がある。白いご飯が茶碗に盛られて出てくる。箸立てから箸を取る。 鍋から皿に盛られた料理が、テーブルの中央に置かれる。表面に油が光っている。色は濃い。白い部分と茶色い部分が交互に並んでいる。湯気がまっすぐ上がる。 酢の酸が、油と混ざった匂いとして鼻に入ってくる。それから、なにか発酵したものの匂い。 夫がテレビを消した。シウチンが椅子を引く。あなたに向かって短く何か言う。 箸を持つ。 ---
今日のふらりごはん

料理名

红烧肉 / ホンシャオロウ(豚の醤油角煮)

この料理について

北京を含む中国全土の家庭で、平日の夕食として作られる豚バラ肉の煮込み料理。白飯のおかずとして鍋ひとつで仕上がる。西城区のような都市部の家庭では、余った分を翌朝の白粥に合わせることも多い。


材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
豚バラ肉(塊)500gスーパー全般皮付きが本来だが皮なしでも可
生姜4〜5枚(薄切り)スーパー全般
長ねぎ(白い部分)1本分スーパー全般5cm程度に切る
紹興酒大さじ3KALDI・業務スーパー・Amazon日本酒で代用可(コクが弱くなる)
老抽(老抽王、濃口中国醤油)大さじ1.5KALDI・業務スーパー・富澤商店代用不可ライン参照
生抽(薄口中国醤油)大さじ2KALDI・業務スーパー日本の薄口醤油で代用可(塩気がやや強くなる)
氷砂糖(冰糖)30〜40gスーパー全般・富澤商店上白糖でも可、ただし色と光沢が落ちる
ラード(猪油)または植物油大さじ1業務スーパー・富澤商店植物油でも可。ラードを使うと風味が増す
肉が被る量(約400〜500ml)
八角1〜2個スーパー全般

アレルゲン:大豆(醤油)、小麦(醤油・紹興酒)


ソース照合メモ

食材・工程中国語ソース英語ソース日本語ソース判定
豚バラ塊肉必須
老抽(濃口中国醤油)◎(複数)必須・代用要注意
氷砂糖でカラメル化(炒糖色)◎(強調)△(言及あり)必須(核の工程)
紹興酒必須
八角必須
生姜・長ねぎ必須
下茹でして湯を捨てる(焯水)◎(全中国語ソース)必須(臭み取り)
桂皮(シナモン)△(一部ソース)オプション
豆腐乳(腐乳)一部ソースのみオプション(地域差)
煮込み時間40〜60分必須

この料理を成立させる核

  • 炒糖色(チャオタンスー):氷砂糖をラードまたは油で溶かしてカラメル化し、肉に絡める工程。これが省かれると、あの艶のある濃褐色にならない。砂糖をそのまま煮込みに入れても代替にならない。
  • 老抽の使用:日本の醤油(濃口・薄口)は塩気は近いが色が出ない。老抽の「色をつける」機能は生抽や日本の醤油では補えない。老抽が入手できない場合は、日本の濃口醤油+少量の黒糖で近似できるが、本来の光沢は出ない。
  • 焯水(下茹で):肉を沸騰した湯で2〜3分茹でて湯を捨てる。これをしないと臭みが残る。
  • 弱火での長時間煮込み:高温で急いで煮ると脂が溶け切らず、箸で崩れる食感にならない。

作り方

  1. 豚バラ肉を4〜5cm角に切る。
  2. 鍋に水を入れて強火で沸騰させ、肉を入れて2〜3分茹でる。湯を捨て、肉を流水でさっと洗う(焯水)。
  3. 鍋を乾かし、ラードまたは植物油を弱火で熱し、氷砂糖を加える。砂糖が溶けてきつね色になるまで絶えずかき混ぜる(焦げやすいので火加減に注意)。
  4. 色が出たら肉を加え、全体に絡める。
  5. 紹興酒を加えて中火にし、アルコールを30秒ほど飛ばす。
  6. 老抽・生抽・八角・生姜・長ねぎを加える。
  7. 肉が被るまで水を加え、強火で一度沸騰させる。
  8. 弱火に落とし、フタをして40〜50分煮込む。途中2〜3回かき混ぜ、水が減りすぎたら大さじ2程度の水を足す。
  9. フタを取り、中火にして煮汁を煮詰める。全体に照りが出たら火を止める。

食べ方

白飯と一緒に、おかずとして食べる。北京の家庭では炒め野菜(白菜の炒め物など)と並べて出すことが多い。煮汁を白飯にかけて食べる。


補足

  • 失敗しやすいポイント:炒糖色の工程で火が強すぎると苦くなる。砂糖が溶け始めたら弱火をキープ。色が「濃いアンバー」になった瞬間に肉を投入する。
  • 老抽の代用:日本の濃口醤油大さじ1.5+黒糖小さじ1で近似可。ただし光沢と深みは本来より落ちる。
  • 紹興酒の代用:日本酒大さじ3。甘みとコクが弱くなるが、臭み取りの機能は果たせる。
  • 時短バージョン:圧力鍋を使う場合、ステップ8を圧力がかかってから15〜18分に短縮できる。ただし煮汁を最後に中火で煮詰める工程は省かない。
  • 翌日:冷蔵すると脂が固まるので、温め直すときに白粥や蒸しパン(馒头)と合わせると、冷えた脂が溶けて絡まる。
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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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