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- 国:バチカン市国 - 地域:ローマ教皇庁所在地。テヴェレ川右岸、ローマ市内に完全に囲まれた内陸国 - 気候・地形:地中海性気候。夏は乾燥して暑く、冬は温和で雨が多い。面積0.44平方キロメートル、丘と平地が混在する - 暮らしの基本:常住人口は約800人前後。スイス衛兵、聖職者、修道者、教皇庁職員とその家族が主な居住者。商業施設はほぼなく、ローマ市内で日用品を調達する。公用語はラテン語とイタリア語。食文化はローマおよびイタリア中部のものとほぼ重なる ---
ボルゴ通りに出る角を曲がると、石畳の目地に先週の雨の跡が残っていた。 午後二時過ぎ。通りは静かだった。サン・ピエトロ広場のほうから観光客の声が遠く届くが、この路地には届かない。排気ガスと、どこかの窓から流れる揚げ物の油の匂いが混ざっていた。壁はオークル色の漆喰で、ところどころひびが入っている。鉄製の郵便受けが扉の横に取り付けてある。 あなたはボルゴ地区の石畳の上に立っていた。 足元のコウモリの羽根のような形をした石畳は、中心がわずかに盛り上がっていて、両端に向かって傾いている。靴のかかとが石の継ぎ目に引っかかった。 五十代とおぼしき男が歩いてきた。グレーのコットンシャツ、黒いスラックス、革靴。脇に薄い書類ケースを抱えている。あなたが地図を眺めているのを見て、立ち止まった。 「どこを探している?」 イタリア語だった。あなたが理解した言葉はそれだけだった。首を振ると、男は地図を指さし、何か言った。聞き取れなかった。男はあなたの手から地図を取り、通りの先を指してから地図の一点を叩いた。そのまま歩き出し、振り返って顎を動かした。ついてこい、という意味に見えた。 男の名はマウリツィオ・デ・サンクティスといった。あとで郵便受けのプレートを見てわかった。 建物は五階建て。エレベーターなし。石段の縁は踏み慣らされて丸くなっていた。手すりの鉄は冷たく、ところどころペンキが剥げて赤錆が見えた。三階の踊り場で、上の階から子どもの声が落ちてきた。それから犬の鈴の音。 扉を開けると、玄関の奥に廊下があった。左右に部屋のドアが並ぶ。天井は三メートル近くあり、漆喰がそのまま白く塗られていた。床はテラコッタタイル。靴を脱ぐ習慣はないらしく、男はそのまま廊下を進んだ。あなたも続いた。 台所は廊下の突き当たりだった。 窓は中庭に向いていて、午後の光が斜めに入っていた。白いタイル張りのカウンター。銀色のガスコンロ。冷蔵庫の扉に子どもの絵がマグネットで貼ってある。シンクの脇に赤いプラスチックのコランダーが伏せてあった。 女が鍋の前に立っていた。四十代後半。髪を後ろでまとめ、水色のエプロンをしている。コンロの炎は青く小さく、鍋はゆっくりとしか揺れていなかった。女はあなたを見て、何か言い、男に向かってまた何か言った。男が肩をすくめた。 鍋の中から、にんにくと、脂と、何か酸いものの匂いが混ざって立ちのぼっていた。 椅子は四脚あった。食卓はオーク材で、角が使い込まれて色が濃くなっていた。卓上に小瓶のオリーブオイルと塩の入った陶器が置かれていた。女が奥から皿を運んできた。白い大皿で、縁が少し欠けていた。 その時、廊下の奥の部屋で何かが倒れる音がした。女が声を上げ、男が立ち上がった。犬の鈴の音がまた鳴り、今度は近づいてきた。廊下から茶色い中型犬が入ってきて、あなたの膝に鼻を押しつけた。男が犬の首輪をつかんで引き戻し、また部屋の奥に消えた。 女は鍋から深さのある皿に中身をよそい、テーブルに置いた。湯気が上がった。鍋底に残った茶色い液体を、小さな木べらでこそいでから、それも皿の上にかけた。 パンの塊がカッティングボードごとテーブルに出た。切り分けてあった。 男が戻ってきて椅子に座った。女も座った。二人は短く言葉を交わした。男があなたに向かってフォークを差し出した。 皿の上には、平たい麺が積み上がっていた。全体が黄みがかったオレンジ色で、表面につやがあった。フォークを入れると抵抗があった。麺の間から、細かく崩れた肉と、濃い色のソースが絡んでいた。酸味とともに、肉の脂の甘みが鼻の奥に届いた。 男が短く言った。 女が頷いた。 あなたはフォークを握った。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Tagliatelle al ragù / タリアテッレ・アル・ラグー

この料理について

ラグーソース(ボロネーゼとも呼ばれる)を絡めた卵入り平打ち麺は、ローマ周辺を含むイタリア中部・北部の家庭で週末の昼食として普通に食卓に上がる料理である。バチカン市国はローマ市街に囲まれており、居住者の食文化はローマおよびエミリア=ロマーニャの家庭料理と地続きになっている。祭事や特別な場面の料理ではなく、日常的な「日曜の昼」または「平日の特別でない夕食」として位置づけられる。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
タリアテッレ(乾麺)320gスーパー・KALDI・Amazon卵入りのものが望ましい。なければフェットチーネで代用可。スパゲッティは代用不可
牛ひき肉250gスーパー赤身多め推奨
豚ひき肉(または豚バラ薄切りをみじん切り)150gスーパー牛100%でも可だが風味の厚みが落ちる
パンチェッタ(またはベーコン)50gKALDI・業務スーパー無塩タイプが理想。ベーコンは代用可だが燻煙香が加わる
玉ねぎ1個(中)スーパー
にんじん1本(小)スーパー
セロリ1本スーパー省くと香りの骨格が崩れる。必須
にんにく1片スーパー
トマトペースト大さじ2スーパー・KALDIなければトマト缶(ホール)を潰したもの大さじ4で代用。コクが薄くなる
ホールトマト缶1缶(400g)スーパー
赤ワイン100mlスーパー白ワインでも可。なければ省いてブロードを増量
ブロード(ビーフブロスまたは水)100〜150mlスーパー(コンソメ可)コンソメ使用の場合は塩を控える
全乳(または生クリーム)大さじ3スーパー肉のアクを和らげる。省くと酸味が前面に出る
オリーブオイル大さじ2スーパー
塩・黒こしょう適量スーパー
パルミジャーノ・レッジャーノ(またはパルメザン粉チーズ)適量(仕上げ用)スーパー・KALDI粉チーズ缶で代用可。風味は落ちる

アレルゲン:小麦(麺)、卵(卵入り麺使用時)、乳製品(牛乳・チーズ)、セロリ(アレルゲン表示対象外だが反応する場合あり)


ソース照合メモ

食材・工程現地語(伊)ソース英語ソース日本語ソース判定
タリアテッレ使用◎(複数イタリア料理サイト)必須
牛豚混合ひき肉必須
ソフリット(玉ねぎ・にんじん・セロリ)必須。省略不可
トマトペースト+ホールトマト必須
赤ワインで煮詰める必須
牛乳または生クリームの添加◎(エミリア系)必須(地域固有の核)
パンチェッタ準必須(ないと旨みが薄くなる)
長時間煮込み(2時間以上)必須
パルミジャーノ仕上げ必須

この料理を成立させる核

  • ソフリット(玉ねぎ・にんじん・セロリの三種を細かく刻んで炒める)を最初に十分に作ること。これが香りの基盤であり、省くと別の料理になる
  • タリアテッレを使うこと。スパゲッティやペンネに変えると、ソースの絡み方と食感が根本的に変わる
  • 牛乳または生クリームをソースに加えること。これがラグーのトマト酸味を丸め、肉と乳化させる。省くとナポリ系のトマトソースになり、ラグーとしての性格が失われる
  • 最低1時間半〜2時間の弱火煮込み。短時間では肉が締まったまま、ソースが分離した状態になる
  • 仕上げにパルミジャーノを削りかけること。省くと塩味と旨みのバランスが崩れる

作り方

  1. 玉ねぎ、にんじん、セロリをそれぞれ5mm以下の細かいみじん切りにする。にんにくも細かくみじん切りにする
  2. 厚手の鍋(または深めのフライパン)にオリーブオイルを入れ、中火でパンチェッタを炒める。脂が出てきたら玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにくを加え、弱火で10〜15分、野菜がしんなりして甘みが出るまで炒める(焦がさない)
  3. 牛ひき肉と豚ひき肉を加え、中火〜強火で炒める。肉の色が変わり、余分な水分が飛んだら赤ワインを加え、アルコールが飛ぶまで2〜3分炒める
  4. トマトペーストを加えて全体に絡め、1分炒める。ホールトマト缶を潰しながら加え、ブロード(またはコンソメを溶かした水)を加えて混ぜる
  5. 牛乳を加えてひと混ぜし、弱火にして蓋をずらした状態で1時間半〜2時間煮込む。途中で水分が飛びすぎたらブロードまたは水を少量足す。ソースが肉と一体になり、表面に赤い油が浮いてきたら完成の目安
  6. 塩・黒こしょうで味を調える
  7. 大きな鍋で湯を沸かし、塩を湯全体の1%量(目安:2リットルの湯に塩20g)加えてタリアテッレを袋の表示より30秒短めに茹でる
  8. 麺を茹で上がる30秒前に、ラグーソースのフライパン(または鍋)を中火にかける。麺を湯切りして直接ソースの鍋に入れ、茹で汁を大さじ2〜3加えながらソースを麺に絡める。30秒〜1分ほど全体を混ぜ合わせる
  9. 皿に盛り、パルミジャーノを削りかけて供する

食べ方

温かいうちにすぐ食べる。食卓にはパルミジャーノとパンを並べる。皿に残ったソースをパンでぬぐって食べるのが家庭での一般的な作法である。ワインはテーブルに出ることが多いが、なくても料理は完結する。


補足

  • 失敗しやすいポイント:ソフリットを急いで強火で炒めると野菜が焦げ、苦みが出る。必ず弱〜中火でゆっくり。また煮込み中に強火にすると底が焦げる。弱火を守ること
  • 代用の風味差:フェットチーネはタリアテッレの代用として機能するが、やや厚みがある場合は食感が重くなる。スパゲッティは断面が丸いためソースが絡まず、別の料理の食感になる
  • 時短バージョン:圧力鍋を使う場合、加圧後は30〜40分の加熱でほぼ同等の結果が得られる。ただし仕上げに蓋を開けて水分を飛ばす工程が必要
  • 翌日の楽しみ:ラグーソース単体は翌日以降に味が落ち着く。冷蔵で3日、冷凍で1ヶ月保存可能。むしろ作りおきのソースが家庭では一般的

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