← 地図に戻る
- 国:アメリカ合衆国 - 地域:インディアナ州 ティピカヌー郡 West Lafayette(パデュー大学のある大学都市。人口約4万5千人) - 気候・地形:内陸型大陸性気候。夏は30℃前後の湿潤な暑さ、冬はマイナス10℃を下回る降雪あり。ウォバッシュ川沿いの平坦な農業地帯。トウモロコシと大豆畑が市街を取り囲む - 暮らしの基本:パデュー大学が経済・人口の中核。学生・教員・周辺農家・製造業従事者が混在する。食材調達はウォルマート・クローガー・ミーアーが主要。スーパーで売られている肉は量が多く、週末にまとめて調理する習慣がある ---
State Street を西に向かうと、歩道のコンクリートが少し隆起している。根が張った木のせいだ。街路樹はメープル。葉は出始めで、枝がまだ空を透かしている。 四月の午後、気温は11度ほど。風が東から来ていて、ジャケットの首元に入ってくる。 住宅街に入ると道が細くなる。芝生はまだ茶色い。駐車場に赤いピックアップトラックが停まっている。荷台に何かのスポーツ道具とブルーシートが積んである。隣の家の郵便受けが傾いている。 Darrell(ダレル)に会ったのはクローガーの駐車場だった。46歳、電気工事の仕事をしている。カーゴパンツに大学のロゴが入ったスウェット。子どもが二人いると話していた。上が中学生、下が小学校三年生。あなたが地図を見ながら立っていると、向こうから声をかけてきた。「どこ行くの」と、それだけ。 彼の家は4ブロック先だった。1960年代に建てられたとおぼしき二階建て。白いビニールサイディングに茶色の木のドア。ポーチに赤いプラスチックの椅子が二脚出ていた。片方にウィンドブレーカーが掛けてある。 ドアを開けると、ブーツを脱ぐ場所があった。マットの上に子どものスニーカーが三足、大人の作業靴が一足。壁にフックがあって、野球帽が四つ並んでいる。 廊下の先にリビング。低いソファに子どもが一人、うつぶせでタブレットを見ていた。ブランケットが半分床に落ちている。テレビはついていたが、音量は低い。スポーツのハイライト映像が流れていた。 台所はリビングと続いている。カウンターがある間取り。コンロは電気式で、その上の換気扇が弱く回っていた。シンクの横にプラスチックの水切りかごがあって、マグカップが伏せてある。 Darrellがコンロの前に立った。大きな鉄の鍋がかかっている。蓋の隙間から湯気が出ていた。匂いは、何かが長く煮えているときの匂いだった。動物性のもの、脂、それと何か甘みのある根菜に近い何か。 冷蔵庫の扉に子どもの絵がマグネットで貼ってあった。ピザのような絵と、犬の絵。犬はいなかった。 Darrellの妻のTracey(トレイシー)が二階から降りてきた。フリースのベストを着ていた。手に洗濯物を抱えていた。洗濯物をソファの背に乗せて、「座って」と言った。それだけだった。 カウンターに紙皿と缶のコーンが出てきた。Darrellが冷蔵庫からバターを出して、フォークで皿の端に乗せた。 子どもが台所に来た。「もうできた?」と聞いた。Darrellが「もうちょっと」と答えた。 鍋の蓋が開けられた。あなたのいる位置まで湯気が来た。液体の表面に脂が浮いている。鍋底から何かが動く音がした。木のへらで混ぜた。茶色いかたまりと、柔らかくなった何かの野菜が見えた。 深皿が四つ、カウンターに並んだ。Darrellが鍋を傾けて、皿に盛った。縁ギリギリまで。白いパンが袋ごとテーブルに置かれた。バターのスティックも。 Traceyが子どもを呼んだ。子どもが椅子を引く音がした。椅子の脚がビニールフロアを擦った。 全員が席に着いた。誰かが「Alright」と言った。フォークが皿に当たる音がした。 ---
今日のふらりごはん

Beef Stew

ビーフシチュー(アメリカ中西部家庭版)/ Beef Stew

この料理について

インディアナ州を含むアメリカ中西部の平日家庭食として広く作られる煮込み料理。週末にまとめて仕込み、平日に温め直して食べることが多い。パンやビスケットと一緒に出すのが一般的で、特定の祝祭や行事とは結びついていない。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
牛チャック(角切り)700gスーパー精肉コーナー牛すじ・牛肩ロースでも可
じゃがいも(ラセット系)大2個(約400g)スーパーメークインまたは男爵で代用可
にんじん大2本(約250g)スーパー
玉ねぎ大1個(約250g)スーパー
セロリ2本スーパー
にんにく3かけスーパー
トマトペースト大さじ2スーパー・KALDI六倍濃縮タイプ。なければトマト缶1/2缶で代用、ただし水気が増す
ウスターシャーソース大さじ1スーパー(ブルドッグ製でも可)風味が若干異なるが許容範囲
薄力粉大さじ3スーパー肉にまぶす用
牛肉ブロス(またはビーフコンソメ)600mlスーパー(コンソメ顆粒2個でも可)コンソメ代用の場合は薄めに
ベイリーフ(ローリエ)2枚スーパー・KALDI
タイム(乾燥)小さじ1スーパー・KALDI
塩・黒こしょう適量スーパー
植物油大さじ2スーパー

アレルゲン:小麦(薄力粉)、セロリ(一部の方はアレルギー反応あり)。ウスターシャーソースに魚介(アンチョビ)が含まれる場合あり

ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(米英語)英語ソース全般日本語ソース判定
牛チャック角切り◎ 共通◎ 共通必須
じゃがいも・にんじん・玉ねぎ・セロリ◎ ほぼ全レシピに登場必須
肉に粉をまぶして焼く(ブラウニング)◎ 中西部レシピで強調△(省くレシピあり)必須(食感・風味の核)
トマトペースト◎ 多数必須
ウスターシャーソース◎ 中西部・南部共通で頻出必須
ベイリーフ+タイム必須
赤ワイン△(一部レシピのみ)オプション
フリーズドピース△(一部のみ)オプション

この料理を成立させる核

  • 肉に薄力粉をまぶしてから強火で表面を焼く(ブラウニング):この工程を省くと、煮汁がとろみのある深い色にならない。粉が焼けた層がスープのコクと濃度の基盤になる
  • トマトペーストを炒めてから水分を加える:直接液体と混ぜると酸味が残る。必ずペーストを鍋肌で少し炒めること
  • ウスターシャーソース:中西部の家庭ビーフシチューにおける「隠し味の定番」。うまみと複雑な風味を底上げする。省くと味が平板になる
  • じゃがいもを崩れすぎる前に入れる:じゃがいもは後半(残り30〜40分)で加える。最初から入れると溶けてとろみは出るが、存在感がなくなる
  • 長時間の弱火煮込み:最低90分。肉の繊維がほぐれてフォークで切れる状態が正しいゴール

作り方

  1. 牛肉に塩・黒こしょうを振り、薄力粉をまんべんなくまぶす。余分な粉は落とす
  2. 厚手の鍋(鋳鉄またはステンレス)に油を入れ強火で熱し、牛肉を入れる。触らずに焼き、四面に焼き色をつける(1面につき1〜2分)。焼いた肉は取り出しておく
  3. 同じ鍋に玉ねぎ・セロリを加え、中火で2〜3分炒める。底の焼き色をへらで削りながら混ぜる
  4. にんにくを加えてさらに1分炒める
  5. トマトペーストを加え、鍋肌に押し付けるようにしながら1〜2分炒める。ペーストが少し濃くなる
  6. 牛肉を鍋に戻す。ウスターシャーソース、ブロス(またはコンソメスープ)、ベイリーフ、タイムを加える。液体は肉がギリギリかぶる量
  7. 沸騰したら蓋をして弱火にし、60分煮込む
  8. にんじんと大きめに切ったじゃがいも(一口よりやや大きめ)を加える。さらに弱火で30〜40分、じゃがいもが柔らかくなるまで煮る
  9. ベイリーフを取り出す。塩・黒こしょうで味を整える

食べ方

深皿に盛り、白いサンドイッチパン(フレンチブレッドでも可)を添える。バターをパンに塗り、煮汁に浸しながら食べるのが中西部の定番スタイル。翌日は汁がさらにとろみを増す。

補足

  • 失敗しやすいポイント:ブラウニングを急いで蒸し焼きにしてしまうこと。肉を入れたら触らない。鍋に詰め込みすぎると肉が水分を出して蒸えるので、2回に分けて焼くこと
  • 代用:牛チャックの代わりに牛すじ:コラーゲンが多く煮込むとよりとろみが出る。風味はより濃厚になる
  • 代用:ブロスの代わりにコンソメ顆粒:塩分が多いので加塩は最後に確認してから
  • 時短バージョン:圧力鍋使用の場合、工程7は高圧で25分に短縮可。ただし蒸発が少ない分、煮汁の風味がやや薄くなる。工程5のトマトペーストを炒める手順は圧力鍋でも省略しないこと
  • 翌日の楽しみ方:冷蔵後に温め直すと煮汁がゼリー状に固まっている。これをそのまま加熱すれば、初日より濃いとろみになる。残った場合はパイシートを被せてオーブンで焼くと「ポットパイ」に転用できる
この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する