← 地図に戻る
- 国:ブラジル - 地域:マット・グロッソ州北部、ペイショット・ジ・アゼヴェード市(人口約3万人) - 気候・地形:アマゾン南縁のセラード(熱帯サバンナ)と移行帯。乾季(4〜9月)と雨季(10〜3月)が明確に分かれる。標高400〜500m程度の台地。川と小河川が多い。 - 暮らしの基本:農業・牧畜(大豆、牛)が産業の中心。1970〜80年代のブラジル内陸開拓(INCRA)で南部や東北部から移住してきた家庭が多い。食文化は移住元の南部料理と中西部料理が混在している。 ---
舗装が途切れる手前から、道は赤土に変わる。 靴の裏に粒の粗い砂が入る感触。午前11時の光が垂直に近い角度で地面を叩いていて、日陰と日向の境目がくっきり見える。道路わきのセリンゲイラ(ゴムの木)の葉が風もないのにわずかに揺れている。葉の裏が白っぽく光る。 通りに犬が一匹いる。耳の後ろを掻いている。 敷地の境界を示すコンクリートブロックの塀が低く続いていて、その上に折れた有刺鉄線が錆びた状態で乗っている。門はない。砂利を踏む音が自分の耳に返ってくる。 ヴァウデシア・サントスは51歳で、夫は大豆畑の農機オペレーターとして週に4日出かけている。今日は木曜日で、夫は朝5時に出た。昨年から同居している義母と、17歳の末息子がいる。息子は午前中だけ学校に行って昼前に帰ってくる。 彼女と会ったのは昨日の市場だった。あなたが持っていた地図が間違っていて、バスの時刻を尋ねたのがきっかけだった。彼女は「昼に来なさい」と言った。それだけだった。 玄関は引き戸で、建て付けが悪くて底が床に擦れる音がする。タイル張りの床。白と薄茶のパターンが繰り返される。壁は水色に塗られていて、下の方だけ緑がかった汚れが混じっている。 扇風機が壁の金具に取り付けられていて、首を左右に振っている。風が当たる一瞬だけ涼しい。 居間に4脚の椅子と楕円形のテーブルがある。テーブルクロスはビニールコーティングされた格子柄。その上に小さなプラスチック製の花瓶が置かれていて、造花が3本差さっている。テレビがついている。音量は大きい。誰もテレビを見ていない。 台所から音がする。鍋の蓋が鍋縁に当たる金属音。油が熱したパンの上で弾ける短い音。それが断続的に続く。 義母が居間の隅の椅子に座っていて、ひざの上に薄手の毛布を乗せている。外は30度を超えているが、毛布がある。義母はあなたを見て何か言ったが、聞き取れなかった。 台所に入ると湿度が上がる体感がある。コンクリートの壁に油の膜がついている。流し台はステンレスで、水が一本線状に流れっぱなしになっている。蛇口が緩んでいる。 ヴァウデシアは中火の炎の前に立っている。鍋は2つ。大きい方のアルミ鍋に豆が入っていて、スープの色は茶色に近いオレンジ。小さい方の鍋からは白い蒸気が上がっている。 「ニョッキスではないよ」と彼女は言った。別の何かだと言ったが、単語が聞き取れなかった。 冷蔵庫は古いモデルで、扉を開けるとゴムパッキンが剥がれかけているのが見える。中にペットボトルのジュースが2本、卵のパックが半分、ラードが容器に入っている。 鍋の蓋を取ったとき、豆の匂いと豚の脂の匂いが一緒に出てくる。重さのある匂いで、台所の空気全体に溶ける。 そのとき、外で音がした。 息子が帰ってきた。ドアの建て付けの音、靴を蹴飛ばす音、テレビのチャンネルが変わる音。それから「飯まだ?」というポルトガル語が聞こえた。 ヴァウデシアは返事をしなかった。鍋をへらで底からすくい上げるようにかき混ぜた。へらが鍋底に当たる音。 テーブルにプラスチックの皿が4枚並べられた。大きな皿とご飯の皿が別に出てきた。白いご飯。表面がわずかに光っている。豆のスープが大きいスプーンでご飯の横に盛られた。豆は粒がしっかり残っていて、スープに脂の丸いにじみが浮いている。 義母がテーブルに着いた。息子が着いた。 ヴァウデシアが最後に座った。 ---
今日のふらりごはん

フェイジョン・コン・アロース(Feijão com Arroz)

Feijão com Arroz / 豆の煮込みと白飯

この料理について

フェイジョン・コン・アロースはブラジル全土の家庭で日常的に食べられる昼食の基本形であり、マット・グロッソ州でも例外ではない。豆(フェイジョン)は週の初めにまとめて煮て、数日分を使い回すことが多い。「ご馳走」ではなく、毎日の昼の定位置にある料理。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
カリオカ豆(Feijão Carioca)300g富澤商店・Amazon・ブラジル食材店なければ手亡豆(インゲン豆の一種)で代用可。色と甘みが若干異なる
豚バラ肉(薄切りまたはブロック)150gスーパー全般ベーコンやパンセッタでも可(風味がより強くなる)
にんにく3〜4片スーパー全般
玉ねぎ1/2個スーパー全般
サラダ油大さじ2スーパー全般
小さじ1〜(調整)
月桂樹の葉1枚スーパー全般
適量(豆を浸すのに1L、煮るのに1〜1.5L)
白米300g(2合)スーパー全般ブラジル式炊き方あり(後述)

アレルゲン:豚肉(肉アレルギーの方注意)。特定原材料には該当しないが、豆類アレルギーの方は摂取不可。


ソース照合メモ

食材・工程ポルトガル語ソース英語ソース日本語ソース判定
カリオカ豆(またはプレトン)◎(YouTube、フードブログ共通)△(フェイジョアーダとして言及)必須
豚脂・豚肉での炒め出し(refogado)◎(複数ソース)必須
にんにく・玉ねぎ必須
月桂樹の葉必須
白米(炊飯時ににんにくで炒める)必須(ブラジル式)
生トマト(ソフリット)○(一部ソース)×オプション
青ねぎ(仕上げ)○(一部ソース)×オプション

この料理を成立させる核

  • 豆を前日から水に浸す(最低8時間)。浸水なしで炊くと外側が硬いまま内側が崩れる
  • refogado(レフォガード)を作る:にんにく・玉ねぎ・豚脂を油で炒めてから豆と煮汁を加える。この工程を省くと別物になる
  • 豆を煮た後、一部をつぶしてスープに戻す:とろみの正体はこれ。市販のとろみ剤は使わない
  • 白米はブラジル式に炊く:炊く前ににんにくで米を炒めてから水を加える。日本の炊飯器方式と風味が変わる
  • 豆とご飯は別々に作って皿の上で並べる。混ぜて炊かない

作り方

豆の準備

  1. 豆をボウルに入れ、たっぷりの水に浸けて一晩(最低8時間)おく。浸けた水は捨てる。
  2. 豆を新しい水1〜1.5Lで鍋に入れ、月桂樹の葉を加えて中火で加熱する。沸騰したら弱火にし、蓋をして40〜50分煮る(豆が親指と人差し指で軽くつぶれる程度が目安)。圧力鍋なら加圧後15〜20分。

refogado(炒め出し)を作る 3. 別のフライパンに油大さじ2を入れ、中火で加熱する。豚バラ肉を1〜2cm角に切り、脂が出るまで炒める。 4. みじん切りにしたにんにく3片、玉ねぎ1/2個を加え、玉ねぎが透明になるまで炒める(約3〜4分)。 5. 煮上がった豆をカップ1分だけフライパンに加え、フォークまたはへらで粗くつぶす。 6. つぶした豆をフライパンごと元の鍋に戻して混ぜ、塩で味を整える。弱火でさらに10分煮て、スープに自然なとろみをつける。

ブラジル式白米(Arroz Brasileiro) 7. 米を研がずにそのまま(またはさっと洗って水気を切る)フライパンに入れ、油大さじ1とみじん切りにんにく1片を加えて中火で炒める。米の粒が白っぽくなり、にんにくの香りが出るまで2〜3分炒める。 8. 水600ml(米300gに対して)と塩ひとつまみを加え、沸騰させる。蓋をして弱火で15分、水気がなくなったら火を止めて5分蒸らす。

盛り付け 9. 皿にご飯を盛り、その横に豆のスープをたっぷり盛る。豆がご飯に少し流れ込む程度の量が目安。


食べ方

皿の上でご飯と豆のスープを混ぜながら食べる。ランチ(almoço)が主な食事の場面で、午前11時〜午後1時頃に家族そろって食べることが多い。ファロファ(キャッサバ粉を炒ったもの)や生野菜サラダが一緒に並ぶことも多い。


補足

  • 失敗しやすいポイント:豆の浸水を省くと均一に火が通らない。refogadoの炒め工程が短いと風味が薄い仕上がりになる。
  • 代用について:カリオカ豆が手に入らない場合、手亡豆や大豆(白)で代用できるが、カリオカ豆特有のほんのりした甘さと薄皮の食感は出ない。黒豆(フェイジョン・プレト)を使うとフェイジョアーダに近い風味になり、別の料理に近づく。
  • 時短バージョン:缶詰のインゲン豆(400g缶1個)を使えば煮る工程をスキップできる。その場合、refogadoにそのまま加えて10分煮るだけでよい。風味は本来の7〜8割程度。
  • 翌日の楽しみ方:冷蔵保存した豆のスープは翌日さらにとろみが増す。パンに浸けて食べるか、米を加えてリゾット状にしてもよい。

この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する