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- 国:アルメニア共和国 - 地域:ロリ地方(Lori Province)。北部の山岳地帯。アラヴェルディ市周辺。デベド川峡谷沿いの急峻な地形。標高800〜1000m前後。 - 気候・地形:大陸性気候。冬は積雪あり、夏は短く涼しい。深い峡谷に切り込んだ地形で、農地は谷沿いと台地の縁に集中する。針葉樹と広葉樹の混合林が多い。銅山・精錬所の操業で知られる工業地帯でもある。 - 暮らしの基本:家庭菜園と自家製保存食が日常の柱。ジャガイモ、キャベツ、トマト、豆類の自家栽培が一般的。肉は主に羊・豚・牛。パン(ラヴァシュ)は各家庭または地区の共同窯で焼く。ロシア語話者が一定数おり、ソビエト期の住宅(フルシチョーフカ)に暮らす世帯も多い。工場の雇用縮小以降、農業と出稼ぎを組み合わせた生計が続いている。 ---
デベド川沿いの道を歩いている。アスファルトに細かいひびが走り、端に砂利が押し出されている。川の音が崖の下からずっと聞こえている。 水力発電所の施設が対岸に見える。白く塗られたコンクリートの壁に茶色いシミが縦に伸びている。その手前に、電線が三本、低く弧を描いて家と家をつないでいる。電柱はコンクリートで、根元に雑草が密生している。 道の脇に、黒ビニール袋に入った何かが置かれている。袋の口がひもで縛られている。 あなたは上の台地へ向かう坂道に入る。砂利混じりの土の斜面。木の根が横断している。十月の午後、日は低く、木の影が道に斜めに落ちている。空気が湿っている。息が少し白い。 台地の縁に出ると、二階建てのブロック造りの建物が三棟並んでいる。外壁はもとは黄色か薄緑だったようだが、いまは区別がつかない。一階の窓に白いレースのカーテンがかかっている。カーテンの向こうに、植木鉢の葉の輪郭が見える。 石段のそばに、四十代後半くらいの男が立っている。厚手のウールのジャケット。ズボンの膝に泥が乾いている。バケツを片手に持ち、もう片方の手でタバコを持っている。 「アラヴェルディから来た?」と彼は言う。アルメニア語で言ってから、少し間を置いてロシア語で繰り返した。ゲヴォルグという名前だとわかる。精錬所に務めていたが、今は週三日だけ。妻と高校生の息子が家にいる、と彼は言う。 バケツを地面に置く音がした。 玄関ドアは金属製で、右の蝶番が少し歪んでいる。ドアを開けると金属のきしむ音がした。廊下に、長靴が三足。コートが壁の釘に三枚かかっている。 台所は左の突き当たりにある。リノリウムの床。冷蔵庫は角が黄ばんでいる。窓の下に鉄製のガスコンロが二口。窓から峡谷の対岸の木々が見える。枝が揺れている。 コンロの上の鍋から、何かが沸いている。 妻のアニ——四十代前半、前髪を後ろに束ねている——が鍋のふたを持ち上げた。白い蒸気がまとまって上がった。何かの酸味が鼻に届く。トマトだろうか。 そのとき、天井の蛍光灯が一瞬消えた。また点いた。アニは天井を見もせず、ふたを戻した。鍋の内側で何かがぼこぼこと動く音が続いている。 息子が椅子を引いてくる。スニーカーの底がリノリウムに当たる音。テーブルには、すでにラヴァシュが折りたたまれて置いてある。薄いパンが積み重なっている。 アニが鍋をコンロから下ろし、持ち手を両手で持って運んでくる。鍋の縁に沿って薄い茶色の液体のあとがついている。 テーブルに置かれる。重い音がする。 鍋のふたがずらされる。肉と野菜の匂い、それから何かハーブの匂いが混じって出てくる。白い湯気がテーブルの上に広がる。その向こうに、赤みのある汁の中に、野菜と肉の塊が見える。 ゲヴォルグが椅子に座り、息子の頭を軽くたたく。アニが深皿を三枚並べる。 あなたは四枚目の椅子を引いてテーブルにつく。 ---
今日のふらりごはん

料理名

Հաշլամա(Hashlama)/ ハシュラマ——肉と野菜の重ね蒸し煮

この料理について

ハシュラマはアルメニア全土で作られるが、ロリ地方など北部山岳地帯では豚肉または牛肉を使う家庭が多い。平日の夕食として作られる鍋料理で、祭事料理ではない。野菜から出た水分と肉の脂だけで煮るため、追加の水をほぼ加えない点がこの料理の基本的な構造を決めている。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
牛肉(すね、バラ、肩など骨付き推奨)700〜800g一般スーパー骨付きが本来だが骨なしでも可。ラム肉でも作る。
トマト(完熟)3〜4個(約500g)一般スーパー水分の主要な供給源。缶詰不可(水が増えすぎる)
玉ねぎ2個一般スーパー大きく切る
じゃがいも3〜4個(中サイズ)一般スーパー大きく切る
ピーマンまたはカラーピーマン2〜3個一般スーパー
ナス1本(中サイズ)一般スーパーオプションだが北部では入れることが多い
にんにく4〜5片一般スーパー
フレッシュコリアンダー(チャマン)またはパセリ1束一般スーパー・業務スーパーコリアンダー嫌いならパセリのみ。両方入れる家庭もある
小さじ2〜3一般スーパー
黒胡椒小さじ1/2一般スーパー
アリスパイス(チャマン・スパイス、またはオールスパイス)小さじ1/2KALDI・富澤商店・Amazon省くと風味の輪郭が落ちる
ほぼ不要(最大50ml程度)野菜の水分で賄う。加えすぎ厳禁

アレルゲン:特定の主要アレルゲンは材料に含まれないが、使用肉の種類・個人の感受性に応じて確認のこと。


ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(hy/ru)英語ソース日本語ソース(クックパッド他)判定
牛肉またはラム(骨付き推奨)Reddit/ru:ラム・牛どちらも言及複数英語レシピで骨付き推奨が共通クックパッド掲載レシピで「ラム肉」明記◎必須(骨付き推奨)
トマト(生・大量)ru系情報で「トマトで蒸す」強調英語レシピ共通:「水を加えない」ルールクックパッドでもトマト必須◎必須
じゃがいもru系・現地レシピ共通で登場英語ソースで頻出クックパッドで確認◎必須
玉ねぎ全ソース共通全ソース共通確認済み◎必須
重ねて入れる(炒めない)工程ru系強調:「揚げない、炒めない」英語ソース共通日本語ソースでも確認◎必須(核)
水を加えないru系・英語系で異口同音強調あり日本語では明示薄い◎必須(核)
コリアンダー/パセリru系ソースで言及英語ソースで頻出クックパッドで確認◎必須
ナスru系で「北部では入れる」言及一部ソースのみ確認あり△地域オプション
オールスパイス/アリスパイス現地語レシピで言及英語ソースで頻出日本語では省かれがち◎必須(核)

この料理を成立させる核

  • 肉と野菜を炒めず、生のまま鍋に重ねて入れること。この工程を守ることがハシュラマの構造そのもの。下から玉ねぎ→肉→トマト→野菜の順で重ねる。
  • 水を加えない、または最小限にとどめること。トマトと野菜から出る水分だけで蒸し煮にする。水を加えすぎると煮込み汁がスープになり、別の料理になる。
  • 弱火で長時間(最低90分、できれば120分以上)動かさずに蓋をして煮ること。途中でかき混ぜない。素材が重なった状態のまま蒸気で火を入れる。
  • オールスパイス(アリスパイス)を加えること。これがアルメニアのハシュラマの風味の核で、省くと料理が平坦になる。
  • 仕上げに生のハーブ(コリアンダー、パセリ)を乗せること。加熱で入れない。

作り方

  1. 鍋の準備:厚手の鍋(ダッチオーブン、または厚手の鋳物鍋推奨)を用意する。薄い鍋は焦げるので不向き。

  2. 野菜の下処理:玉ねぎは厚切りの輪切りまたは半月。トマトは厚切り(5mm以上)。じゃがいもは4〜6等分。ピーマンは大きめのざく切り。ナスは乱切り。にんにくは皮をむいてそのまま。

  3. 第一層(鍋底):玉ねぎを鍋底全体に敷く。

  4. 第二層(肉):牛肉を玉ねぎの上に並べる。塩・黒胡椒・オールスパイスの半量をここで振る。

  5. 第三層(トマト):トマトを肉の上に全体を覆うように並べる。これが蒸気の蓋の役割をする。

  6. 第四層(残りの野菜):じゃがいも、ピーマン、ナス、にんにくをトマトの上に乗せる。残りの塩・胡椒・オールスパイスを振る。

  7. 蒸し煮開始:鍋の蓋を閉め、中火にかける。沸騰の気配(蓋のふちから蒸気が出てくる)を確認したら弱火にする。

  8. 加熱:弱火で90〜120分。蓋は開けない。途中でかき混ぜない。どうしても心配なら45分後に一度だけ鍋を軽く傾けて汁の量を確認する(焦げ付き防止)。汁が少なすぎる場合のみ、水を大さじ2〜3だけ加える。

  9. 仕上げ:肉が骨からほぐれる、またはフォークで容易に割れるようになったら完成。コリアンダー、パセリをちぎって上に散らす。


食べ方

深皿に汁ごとよそい、ラヴァシュ(薄いパン)またはパンと一緒に食べる。汁をパンに含ませながら食べるのが一般的。テーブルには生のトマトとキュウリのスライスが別皿で添えられることが多い。


補足

失敗しやすいポイント

  • 水を加えすぎると仕上がりがスープ状になる。最初は加えない。
  • 強火にすると玉ねぎと肉が底で焦げる。弱火を守ること。
  • 途中でかき混ぜると野菜が崩れ、構造が失われる。

代用提案

  • ラム肉→牛すね肉で代用可能。風味は若干淡くなるが構造は変わらない。
  • オールスパイス(アリスパイス):入手困難な場合はナツメグとシナモンを少量ずつ(各ひとつまみ)組み合わせる。ただし風味の輪郭は変わる。省略は推奨しない。
  • フレッシュコリアンダー:香りが苦手な場合はパセリのみで代用可。ただし完全に省くと仕上がりの香りが平坦になる。

時短バージョン 圧力鍋使用で加熱時間を40〜50分に短縮できる。ただし「重ね蒸し」の構造が崩れやすいため、素材の切り方を大きくすること。

翌日の楽しみ方 冷蔵保存翌日のほうが味が落ち着いて、汁にコクが出る。温め直す際は弱火でゆっくり。汁にじゃがいもがとけ込んで軽くとろみが出ていることがある。それでよい。

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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