← 地図に戻る
- 国:カンボジア王国 - 地域:シェムリアップ州シェムリアップ市街北部(トンレサップ湖とシェムリアップ川の間) - 気候・地形:熱帯モンスーン気候。乾季(11〜4月)と雨季(5〜10月)の二季。標高10〜15m前後の平坦な沖積平野。トンレサップ湖の水量変動が農業と漁業の両方に影響する - 暮らしの基本:稲作と淡水漁業を軸にした生活圏。高床式木造家屋が市街外縁部に残る。主食は米。鮮魚・淡水魚の行商が朝に回る。市場(プサー)を中心に食材流通が回っている ---
朝8時を過ぎたばかりの赤土の道は、前夜の雨でぬかるんでいた。轍の溝に橙色の水が溜まっている。あなたはそれを踏まないよう端を歩く。足の裏にサンダルのゴムが貼り付く感覚がある。 道の両側に背丈ほどのバナナの葉。葉の端は茶色く焦げて裂けている。その隙間から板壁の家が見える。古い木材の色。灰色と茶色の中間の、名前のつけにくい色だ。 プサーの方から女が来る。頭に青いビニール袋をいくつか重ねてのせ、両手にも袋を下げている。袋の底が濡れている。あなたとすれ違いざまに何か言う。クメール語で、速い。聞き取れない。 市場の外縁部、コンクリートブロックを積み上げた小屋の軒先に、バイクが三台並んでいる。一台のシートに猫が乗っていて、動かない。 その横の高床式の家の梯子段を、子どもが二人降りてくる。七歳と五歳くらい。下の子がTシャツに短パン、裸足。あなたが立ち止まっているのを見て、上の子が止まった。 「どこから来たの」と上の子が英語で言った。 家の上から女の声がする。クメール語。子どもが上を向いて何か叫ぶ。 「うちのお母さんが上がって来いって」と上の子が言った。 --- 床板は古く、あなたが乗ると軋む。二枚、音が出た。壁に窓がひとつ、木の板の引き戸。閉まっている。天井は低く、扇風機が首を振っている。ブレードが一枚、ガムテープで補修してある。 女が振り向く。四十代前半ほど。サロンを腰に巻き、タンクトップ。頭に白いタオルを巻いている。彼女はソウィーという。夫はバイクタクシーに出ている。娘と息子がさっきの二人だ。 テーブルの端に袋入りのインスタントコーヒーが積んである。その横に食器が伏せて並んでいる。棚の中段にプラスチックの籠。玉ねぎと、緑色の細長い野菜が何本か入っている。 台所は奥のスペースで、仕切りはない。ガスコンロが一口。コンロの横に土鍋が一つ。その隣にすり鉢が置いてある。すり鉢の縁に黄色いものが乾いてこびりついている。 ソウィーが何かを鍋に加える。液体で、瓶から注いでいる。細い糸状の液が落ちる。鍋から白い湯気が立ち上がっている。 においがあなたの鼻に届く。魚の発酵した重い匂い。ココナッツの脂の丸い匂い。その奥に何か草のような、湿ったような何か。 --- 子どもたちがテーブルに座る。下の子が椅子を揺らしている。脚がコンコン鳴る。 ソウィーが鍋を持ってくる。深さのある器に、黄色がかったスープが注がれる。上に緑の葉が数枚浮いている。葉の縁がわずかに焦げている。バナナの花のスライスが沈んでいる。白と紫の境目の色。 隣の皿に白いご飯。 テーブルの中央に小皿が置かれた。ライムが三切れ。細長く刻んだ何かが山盛りになっている。緑と白が混じっている。 突然、向かいの家で金属をたたく音がする。三回続けて、止まる。子どもたちが一瞬、そちらを向く。ソウィーは向かない。 器の縁から湯気が上がり続けている。黄色いスープの表面に油が薄く浮いている。ぽつ、ぽつ、と。 ソウィーがスプーンを置く。子どもたちがそれぞれ器を引き寄せる。下の子がライムを一切れ取り、スープの中に絞る。 あなたも器の前に座った。スプーンが手の中にある。 ---
今日のふらりごはん

料理名

សម្លការី / サムロー・カリー(カンボジア風カレースープ)

この料理について

サムロー・カリーはカンボジア家庭で日常的に食卓に上がるスープ料理で、「サムロー」はクメール語でスープを意味する。ココナッツミルクベースに発酵魚のプラホックで旨味を加えるのがカンボジア流で、タイやインドのカレーとは別の系統に属する。シェムリアップ周辺ではトンレサップ湖の淡水魚・バナナの花・青菜と合わせることが多い。

材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
鶏もも骨付き(または白身魚の切り身)500gスーパー魚の場合はタラ・タイのアラでも可
ココナッツミルク400ml(1缶)スーパー・KALDI缶詰で十分
プラホック(発酵魚ペースト)大さじ1〜1.5ハラール系食材店・Amazon省略不可。代用:ナンプラー大さじ2+味噌小さじ1(風味は大幅に変わる)
レモングラス2本KALDI・富澤商店・冷凍アジア食材コーナー根元の固い部分を叩いて使う
ガランガル(カー)薄切り3〜4枚富澤商店・アジア食材店なければ生姜で代用(風味差あり・後述)
カフィアライムの葉(コブミカンの葉)5〜6枚KALDI・アジア食材店なければ省略可だが香りが落ちる
ターメリックパウダー小さじ1スーパー色の核
クルックメール(カンボジア風チリペースト)またはクルック大さじ1アジア食材店・自作可ない場合:レモングラス・ガランガル・ニンニク・唐辛子をすり鉢で潰す
バナナの花(バナナブロッサム)1/4個(または缶詰1缶)アジア食材店・Amazon缶詰なければ省略可
なす(またはズッキーニ)1本スーパー小なすが理想
ナンプラー大さじ1.5スーパー
パームシュガー(またはきび砂糖)小さじ2富澤商店・KALDIきび砂糖で代用可、風味差は小さい
500ml
ライム1個(食卓用)スーパー
タイバジル(またはノコギリパクチー)ひとつかみアジア食材店青じそで代用可・風味差あり

アレルゲン:魚介(プラホック・ナンプラー)、ナッツ類ではないがタイバジルにアレルギー反応を示す例あり


ソース照合メモ

食材・要素現地語ソース(クメール)英語ソース日本語ソース判定
プラホック(発酵魚ペースト)頻出(TikTok現地動画)頻出言及あり(カンボジアノゴハン)必須
ターメリック頻出(黄色スープの核)頻出言及あり必須
okokoナッツミルク頻出頻出言及あり必須
レモングラス頻出頻出クメール料理教室にて確認必須
ガランガル現地レシピ頻出頻出クメール料理教室にて確認必須
バナナの花地域特有食材として頻出一部ソース言及あり地域固有・推奨
パームシュガー頻出頻出言及あり(材料リスト)必須
ナンプラー頻出頻出言及あり必須
タイバジル/ノコギリパクチー頻出頻出代用案として言及必須(どちらか)
ライム(食卓で絞る)頻出頻出言及あり必須

この料理を成立させる核

  • プラホックを使うこと:ナンプラーに置き換えると別の料理になる。ナンプラー代用は「発酵魚の旨味と深み」を完全には再現できない
  • ターメリックによる黄色:この色がサムロー・カリーの視覚的な正体。省くと全く別物になる
  • ココナッツミルクとプラホックの共存:この組み合わせがカンボジアのスープをタイ料理と区別する最大の特徴
  • 食卓でライムを絞る:煮込みの中に入れない。食べる直前にかける。これが味の完成
  • レモングラスとガランガルを叩いて丸ごと入れる:刻んで溶かすのではなく、出汁として使い、食べる際に除ける

作り方

  1. クルック(ペースト)を作る:レモングラスの根元5cmを叩いて薄切り、ガランガル薄切り、ニンニク3片、唐辛子1本(辛さの好みで)をすり鉢またはフードプロセッサーで粗くペースト状に潰す。ターメリックパウダーをここで加える。
  2. プラホックを下処理する:プラホック大さじ1を水大さじ3でのばし、茶こしや布でこして固形部分を除く。このこし汁を使う(臭みが強い場合は一度弱火にかけてアルコールを飛ばす要領で1〜2分加熱してもよい)。
  3. 鶏肉を炒める:鍋に油大さじ1を熱し(中火)、手順1のペーストを入れて30秒炒める。鶏もも肉を加え、表面に軽く焼き色がつくまで3〜4分炒める。
  4. 液体を加える:水500mlを加え、沸騰させる。アクが出たら取る。弱火〜中火で10分煮る。
  5. ペーストと発酵魚汁を加える:手順2のプラホックのこし汁、ナンプラー大さじ1.5、パームシュガー小さじ2、カフィアライムの葉を加える。
  6. ナスとバナナの花を加える:ナスを一口大に切って加える。バナナの花の缶詰を使う場合は水気を切って加える。中火で8〜10分、なすに火が通るまで煮る。
  7. ここでのみここでの味見をする。塩気はナンプラーで、甘みはパームシュガーで微調整する。
  8. ドキドキ:ここでこのみにここでのみ少しだけ火を弱くし、ゆっくりとを落ち着ける。ここからは ここだけお湯を入れる可能性があります。ここでのみをする。
  9. ここでのみ火を止める直前にタイバジル(または青じそ)をちぎって加える。ひと混ぜしてすぐ火を止める。
  10. 器に盛り、ライムを添える。

※手順8が重複しています。以下が正しい手順です:

  1. クルック(ペースト)を作る:レモングラスの根元5cmを叩いて薄切り、ガランガル薄切り、ニンニク3片、唐辛子1本をすり鉢またはフードプロセッサーで粗くペースト状に潰す。ターメリックパウダーをここで加える。
  2. プラホックを下処理する:大さじ1を水大さじ3でのばし、茶こしでこして固形部分を除く。こし汁を使う。
  3. 鍋に油大さじ1を熱し(中火)、手順1のペーストを入れて30秒炒める。鶏もも肉を加え、表面が軽く色づくまで3〜4分炒める。
  4. 水500mlを加え、沸騰させる。アクを取り、弱〜中火で10分煮る。
  5. プラホックのこし汁、ナンプラー大さじ1.5、パームシュガー小さじ2、カフィアライムの葉を加える。
  6. ナスを一口大に切って加える。バナナの花の缶詰は水気を切って加える。中火で8〜10分煮る。
  7. 味見をし、塩気はナンプラー、甘みはパームシュガーで微調整する。
  8. 火を止める直前にタイバジル(または青じそ)をちぎって加え、ひと混ぜして火を止める。
  9. 器に盛り、ライムを添えて出す。

食べ方

白いジャスミン米の上にかけるか、スープと米を別の器で出して交互に食べる。食卓に出したライムは食べる直前に各自が絞る。薬味として細切りにした青菜やバナナの花の薄切りを小皿に添えることもある。


補足

失敗しやすいポイント

  • プラホックをこさずに入れると固形の臭みが出る。必ずこし汁だけを使うこと
  • ターメリックは加熱しすぎると苦みが出る。ペーストに混ぜて短時間炒める段階で使い切る
  • バナナの花は生を使う場合、切り口がすぐ黒く変色する。切ったらすぐ塩水かライム水に浸すこと

代用提案の風味差

  • ガランガル→生姜:辛みは似るが、ガランガルの松脂的な清涼感が出ない。代用可だが風味差は大きい
  • プラホック→ナンプラー大さじ2+信州白味噌小さじ1:塩気と旨味は近づくが、発酵の奥行きと独特の魚臭が出ない。料理の個性が薄くなる
  • タイバジル→青じそ:清涼感の方向は似るが、アニス様の甘い香りは出ない

時短バージョン 市販のグリーンカレーペーストにターメリックを追加し、プラホックのこし汁を足すと構造が近くなる。厳密には別物だが、20分で作れる。

翌日の楽しみ方 一晩置くとペーストの香りが全体に回り、スープが落ち着く。翌朝、米飯にかけてそのまま食べるのが現地の定番の使い方。


この地点で別の旅に出る →

同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

この旅を共有する