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- 国:北マケドニア - 地域:City of Skopje / スコピエ
ヴァルダル川沿いの遊歩道を外れると、舗装のつなぎ目が波打った路地に入る。コンクリートブロック造りの集合住宅が両側に並ぶ。壁面は黄土色と灰色の中間で、ところどころにプラスチック製のベランダ囲いが後付けされている。地面に白線は残っていないが、車が二列で駐まっている。午後三時の日差しが路面で反射し、目が細まる。 路地の角に小さな雑貨店がある。入口の外に積まれた黄色い飲料ケースのそばで、四十代とおぼしき男が携帯電話を見ている。耳に挟んだ煙草は火がついていない。あなたが地図アプリを見ながら立ち止まると、男がケースから腰を上げた。「Каде одиш?」、どこへ行くのか、と言っているらしい。あなたが地図の画面を見せると、男はしばらくそれを見て、顎でビルの奥を示した。「Елен。Мојата комшика.」。女の名前と、隣人という単語だけ聞き取れた。 男に連れられてビルの裏手に回ると、一階の木製ドアの前でエプロン姿の女が洗濯物を取り込んでいた。エレナ、47歳。夫は配管工で昼間は現場、息子は高校生でまだ帰っていない。男が二言三言話すと、エレナはあなたに向かってドアを大きく開けた。「Влези, влези」。入れ、入れ、と繰り返した。 廊下に入ると、靴底がフローリング調のビニールタイルを踏む感触がある。壁際に茶色い靴棚。奥から何かが煮える音と、乾いた土のような匂いが来る。キッチンは四畳半ほどで、白いガスコンロの上に年季の入った土鍋がある。鍋の縁が黒ずんでいる。エレナはガスの火を弱火に落とし、木べらでかき混ぜた。白い塊がいくつも木べらの周りを回った。 リビングへ通される。ベージュのソファカバー、ガラス天板のローテーブル、壁際に二扉の食器棚。棚の上段にはクリスタルグラスが並んでいるが、下段には小麦粉の袋、アイバルの瓶、紙袋が押し込んである。テレビが点いており、ニュース番組の音が出ているが、誰も見ていない。 エレナが台所と居間を三往復した。重い音を立てて、土鍋がそのままローテーブルの中央に置かれた。鍋敷き代わりに折り畳んだ布巾が敷いてある。陶器の蓋を持ち上げると、白と薄茶の固まりが並ぶ。湯気が上がり、焦げた豆とたまねぎの混じった、硫黄のような、土のような匂いが広がった。鍋のふちは焦げてカリカリになっている部分がある。エレナは瓶のアイバルをテーブルに出し、白いパンを三枚切ってそこに置いた。 窓の外で何かが倒れる金属音がした。エレナが窓を開けて下を見た。「Мачката пак」、また猫か、とつぶやいた。ゴミ箱が倒れている音がまだ続いていた。エレナはそのままドアを閉め、テーブルに戻り、陶器のスプーンをあなたの前に置いた。 「Јади, јади.」 ---
今日のふらりごはん

料理名

Tavče Gravče / タヴチェ・グラフチェ

この料理について

白インゲン豆を玉ねぎ・パプリカパウダーとともに土鍋に入れ、オーブンで焼いた北マケドニアの家庭料理。週に一度、特に金曜や断食日の食卓に上ることが多い。スコピエをはじめ、ヴェレス、ビトラなど主要都市いずれでも見られるが、家庭によってスモーク系の付け合わせ肉を加えるかどうかが異なる。


材料(4人分)

食材分量日本での入手備考
乾燥白インゲン豆(白花豆・大福豆でも可)500gスーパー・富澤商店・業務スーパー一晩水に浸けておくこと必須
玉ねぎ2個(中)スーパー
サラダ油(またはひまわり油)大さじ3スーパー現地はひまわり油が標準
パプリカパウダー(スイート)大さじ2スーパー・KALDI多めに使うのが現地の標準量
小さじ1〜1.5スーパー
黒こしょう小さじ1/4スーパー
水(または豆の茹で汁)200〜300ml豆の茹で汁を使うと深みが増す
乾燥チリ(ルテニツァ用赤唐辛子・任意)1本KALDI・業務スーパーオプション:辛みではなく風味付け

アレルゲン:特定原材料なし。豆類アレルギーに注意。


ソース照合メモ

食材・工程現地語/マケドニア語ソース英語ソース日本語ソース判定
白インゲン豆(乾燥)◎(macedoniancuisine.com)◎(olivemagazine, theflavorvortex)◎(e-food.jp, note.com)必須
玉ねぎ必須
パプリカパウダー必須
土鍋(陶器)でオーブン焼き◎(macedoniancuisine.com)◎(olivemagazine)◎(e-food.jp)必須・核
豆の一晩浸水必須
アイバルを添える△(言及のみ)◎(note.com)強く推奨・添え方
スモーク肉(ナレデニ)同時焼き△(家庭による)オプション
トマト△(一部ソースのみ)オプション

この料理を成立させる核

  • 乾燥白インゲン豆を使う。缶詰・冷凍では食感と焼き目が出ない
  • 土鍋(陶器製)に入れてオーブンで焼く。これが「タヴチェ(鍋)」という料理名の由来そのもの。鍋ごと食卓に出る
  • パプリカパウダーを惜しみなく使う。少量の風味付けではなく、豆全体を色づかせる量
  • 表面を焦がす。オーブンの上火で豆の表面が少しカリカリになる部分を作る。これが食感の要
  • 豆を煮てから焼く(二段階加熱)。生豆をそのまま焼くのではない

省くと別の料理になるライン:「土鍋ごとオーブン」「パプリカパウダーの量」「焦げ目」の三点。フライパンで仕上げると別の豆炒め料理になる。


作り方

  1. 前日準備:乾燥白インゲン豆500gをたっぷりの水に一晩(8〜10時間)浸ける。
  2. 下茹で:浸け水を捨て、豆を新しい水から中火で40〜50分茹でる。芯が残る手前(8割がた火が通った状態)で火を止め、茹で汁は取っておく。
  3. 玉ねぎを炒める:玉ねぎ2個を薄切りにし、深めのフライパンにひまわり油大さじ3を熱し、中火で15分じっくり炒める。半透明を超えて薄く色づいた状態まで。
  4. パプリカを加える:火を弱火に落とし、パプリカパウダー大さじ2を加えて素早くかき混ぜる。焦げやすいので10〜15秒で次へ。
  5. 豆と合わせる:下茹でした豆を鍋に加え、豆の茹で汁を200〜300ml注ぐ。塩、黒こしょうで調味。全体をひと混ぜする。
  6. オーブン焼き:オーブンを200℃に予熱。陶器製の土鍋(または耐熱の深い土鍋・グラタン皿でも代用可)に豆ごと移す。ふたをせずにオーブンへ入れ、40〜50分焼く。
  7. 焦げ目を作る:残り10分で上火(グリル機能)に切り替えるか、温度を220℃に上げる。表面の豆が少しカリカリになる程度の焦げ目をつける。
  8. 休ませる:オーブンから出し、5分置いてから土鍋ごと食卓へ。

食べ方

土鍋をそのまま食卓の中央に置く。アイバル(パプリカペースト)を瓶ごと出し、スプーンで豆にのせながら食べる。白いパン(レブ)を厚めに切って添える。スープとして食べる家庭、おかずとして食べる家庭、どちらもある。翌日は水分が豆に吸われて固まるので、少量の水を加えて弱火で温め直す。


補足

失敗しやすいポイント

  • 豆の下茹でが長すぎると、オーブン工程でつぶれて泥状になる。下茹では「歯で切れるが芯がある」状態で止めること
  • パプリカパウダーを油に加えたとき、強火だと15秒以内に焦げる。必ず弱火で

代用提案

  • 土鍋がない場合:ル・クルーゼなどの鋳物鍋、または深めのグラタン皿でも可。ただし陶器の土鍋に比べ焦げ目が均一になりにくく、風味が若干フラットになる
  • ひまわり油がない場合:サラダ油で代用可。風味差は軽微
  • アイバルが入手できない場合:KALDIや富澤商店で購入可能。なければ市販のパプリカペーストで代用。アイバル独自のスモーキーさは失われる

時短バージョン 乾燥豆の代わりに水煮缶(白インゲン豆缶、400g×2缶)を使うと下茹で工程を省ける。ただし缶詰は豆がすでに軟らかいため、オーブン時間を30分に短縮すること。食感は現地のものより柔らかめになる。

翌日の楽しみ方 冷めて固まった豆を、水少々で緩めながら弱火で温め直す。翌日は味がなじんでむしろ深みが増す。パンに塗るような食べ方も家庭では一般的。

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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Tavče Gravče / タヴチェ・グラフチェ — City of Skopje / スコピエ / 北マケドニア — ふらりごはん