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- 国:カンボジア王国 - 地域:シェムリアップ州・シェムリアップ市街(トンレサップ湖北岸から約15km) - 気候・地形:熱帯モンスーン気候。乾季(11〜4月)と雨季(5〜10月)に二分される。標高10m前後の平坦な沖積低地。水田とヤシが混在。 - 暮らしの基本:農業(水稲)と淡水漁業が生活の基盤。市場(プサー)への依存度が高く、朝の買い出しが日課。住居は高床式が多いが、市街では低床のコンクリート建ても増えている。クメール語話者が大多数。上座部仏教が日常の時間軸を規定する。 ---
道は舗装されているが端の方がひびわれていて、そこに土が盛り上がっている。午前10時ごろ、すでに地面から熱が返ってきている。サンダルの底を通じて足裏がじわりと温度を拾う。ヤシの幹が3本、電線の下に立っていて、葉が一枚もゆれていない。 市場の手前の細い路地を入ると、プラスチック製の赤い椅子が歩道に2脚出ている。隣の軒先でエンジンがかかったままのバイクが止まっていて、排気ガスの匂いと、何かを揚げている油の匂いが交互に来る。 鍋を担いだ女がそこを横切る。60代か、70代か、判断しにくい。腰に巻いたサロンが紺と白の格子柄で、歩くたびに裾が動く。目が合った。こちらが地図を見ていたせいだろう、立ち止まった。 何か言った。聞き取れない。 「ボボー?」と彼女は繰り返した。 頷くと、彼女は路地の奥へ顎を向けた。 ついて行くことになった。 --- コンクリート打ちっぱなしの壁、低い天井。入口にスリッパが3足並んでいる。棚の上に小さな仏壇があって、線香の灰が受け皿に積もっている。壁に掛け時計、プラスチックのケース、カレンダー。扇風機が1台、金属のスタンドごと首を振っている。 彼女の名前はチャンダーといった。68歳、夫は漁師で昼から川に出る。息子夫婦が隣に住んでいて、孫が2人いると写真を指さして言った。 台所は屋内と屋外の中間にある。屋根だけがあって、三方は壁がない。炭火のかまどが1台と、ガスコンロが1台。土鍋が2つ、コンロの脇に置いてある。 チャンダーが鍋の蓋を取った。 白い湯気が天井の方へ薄く広がる。匂いは最初に米の甘さ、次にショウガ、それから何か発酵したもの。言葉にしにくい深みのある匂いで、鼻の奥に残る。 鍋の中は白濁したとろみのある液体で、ご飯粒が完全に溶けている。表面に薄切りの何か――魚か――が沈んでいる。すくい上げると身がほろほろとほどけた。 孫の一人が台所に入ってきた。7歳か8歳の男の子で、チャンダーの脚に手をあてて何か言った。チャンダーが短く返した。男の子はまた出て行った。 庭の木が1本、ゆっくり揺れた。風が来た。葉の裏が白くなり、空が急に暗くなった。 チャンダーが鍋を炭火のかまどからガスコンロの方に移した。素早い動きだった。雨が来るのかもしれない。 隣の家で何かを叩く音がした。コンコン、コンコンと規則的な音。それが止んだあと、鍋がグツグツと音を立てた。 小皿が2枚、木のテーブルに並んだ。一枚にはライムが2切れ。もう一枚には何か黒っぽい、固形のものが小さく盛ってある。チャンダーはそれを箸でつまんで鍋の中に溶かした。 匂いが変わった。 発酵の深みがさらに濃くなった。生臭さとうまみが一緒に来る感じで、鼻をそむけたくなるのに、もう一度嗅ぎたくなる種類の匂いだった。 茶碗が置かれた。 チャンダーが何か言った。短い言葉だった。 手を合わせた。 ---
今日のふらりごはん

料理名

បបរ / ボボー・トレイ(クメール粥・淡水魚入り)

この料理について

カンボジアの家庭で朝食や病気のとき、あるいは日常の昼食として食べられる米粥。トンレサップ湖周辺のシェムリアップでは淡水魚を使うのが一般的で、プラホック(発酵魚ペースト)で下味・風味をつけるのが地域の特徴。特別な日の料理ではなく、冷蔵庫を開けたら作れる、週に何度もある日常食。

材料(2〜3人分)

食材分量日本での入手備考
白米(洗わない)1カップ(180ml)スーパー洗うととろみが出にくい
8〜10カップ多めにして後で調整
淡水魚または白身魚(骨付きでも可)200〜250gスーパー、鮮魚店鯛のアラ、ティラピア等。骨付きの方が出汁が出る
プラホック(発酵魚ペースト)大さじ1〜1.5カンボジア・タイ系食材店、Amazon「prahok」で検索代用:ナンプラー大さじ1+魚醤少々(風味は2〜3割落ちる)
ショウガ(薄切り)3〜4枚(親指大1かけ分)スーパー
ニンニク2片スーパー
ナンプラー大さじ1スーパー塩味の調整用
パームシュガー小さじ1KALDI、富澤商店代用:きび糖または三温糖(甘みの質感がやや異なる)
ライム1個スーパー(輸入果実コーナー)、なければ国産かぼす
ノコギリパクチー(チャドン・ブン)またはパクチー適量アジア系食材店日本では青ねぎ+青じそで代用可(香りの系統が異なる)
少々

アレルゲン:魚(発酵魚ペースト・ナンプラー含む)


ソース照合メモ

食材現地語ソース英語ソース日本語ソース判定
米(洗わない)クメール語レシピ動画に言及あり英語圏レシピ複数で「don't rinse」明記日本語料理教室ソースで確認必須
淡水魚トンレサップ周辺のレシピに頻出英語ソース複数で「freshwater fish」記載日本語ソースで「タイのアラ」として代用提案必須(地域固有)
プラホック(発酵魚ペースト)クメール語レシピで繰り返し登場TikTokソースで「stronger than natto」と説明日本語ソース・料理教室ソースで言及必須(文化的核)
ショウガ動画レシピに登場複数英語ソースで確認料理教室ソースで確認必須
ナンプラー日本語ソースのカンボジア料理教室で明記英語ソースで確認明記必須
パームシュガー現地語動画に登場英語ソースで確認日本語ソースで明記必須
ノコギリパクチークメール語名「チーアンガム」として動画に登場一部英語ソースに記載日本語ソースで「青ねぎ・青じそで代用」と提案地域固有・使用を推奨

この料理を成立させる核

  • プラホック(発酵魚ペースト)を使う:これを省くとただの塩粥になる。香りと発酵由来のうまみがボボーの軸。代用する場合もナンプラーと組み合わせ、発酵の奥行きを補う
  • 米は洗わない:でんぷんを残すことで「溶けるようなとろみ」が出る。洗うと別物になる
  • 骨付き魚で炊く:骨から出る出汁がスープの土台。切り身だけで炊くと味の奥行きが出ない
  • ライムを搾って食べる:食べる直前にライムを搾ることで酸味が加わり味が引き締まる。卓上必須

作り方

  1. 魚は塩少々(分量外)をまぶして10分置く。その後水で洗い流す。
  2. 鍋に水8カップを入れ、ショウガの薄切りとニンニクを加えて中火にかける。沸騰したら魚を入れる。
  3. アクが出たらすくい取る。蓋をせず中火で10〜15分炊く。魚に火が通ったら取り出し、骨を除いて身をほぐしておく。
  4. 同じ鍋のスープに白米(洗わない)を入れる。スープが少なければ水を足して合計8〜10カップにする。
  5. 中火〜弱火で30〜40分、時々かき混ぜながら炊く。米粒が完全に溶けてとろりとした状態になるまで。
  6. プラホックを小さな器にとり、スープを少量加えて溶いてからペーストを鍋に加える。ダイレクトに入れると香りが飛ぶので注意。
  7. パームシュガー、ナンプラーで味を整える。塩は最後に加減する。
  8. ほぐした魚の身を戻す。一度混ぜて火を止める。
  9. 茶碗によそい、ノコギリパクチー(または青ねぎ・青じそ)を散らす。ライムを添える。

食べ方

茶碗に注いでそのまま食べる。食べる直前にライムを搾る。プラホックの塩気があるので、最初は少なめに搾って味をみてから調整する。スープが多めの場合は茶碗の中でご飯にかけて食べる家庭もある。


補足

  • 失敗しやすいポイント:プラホックを入れすぎると塩辛くなる。最初は大さじ1で試し、食べながら追加する方が安全。また、米を洗ってしまうと粘りが出ないので注意。
  • 代用の風味差:プラホック→ナンプラー代用の場合、発酵の複雑な香りが抜けて軽い味になる。韓国のアミの塩辛(새우젓)を少量加えると発酵感が補えることがある。
  • 時短バージョン:圧力鍋を使う場合、加圧後は20分程度で米が溶ける。ただし鍋の底が焦げやすいので水を多めに。
  • 翌日の楽しみ方:冷蔵保存した翌日は米がさらに吸水して固くなる。水またはスープを足して弱火で温め直すと戻る。ライムとハーブは食べるたびに新しいものを追加する。

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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