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- 国:中国 - 地域:九龍 / 香港
道は午後の熱気を床面から返している。旺角の横丁、歩道の幅は二人が並ぶとほぼ塞がる。コンクリートの壁に貼りついた蛍光灯の光が白く照り返す。左手のシャッター前に、プラスチックの赤いかごに野菜が積まれている。芥蘭が半分ほど湿っている。 唐楼の入口に向かって、あなたは一歩下がる。外壁は灰色で、二十年ぶんの排気ガスが縦に薄く走っている。エレベーターはない。鉄の階段に足裏が触れるたびに、数十年分の金属の厚みが伝わってくる。 五階の踊り場で、陳さん(57歳、電機店の修理工。夫と成人した息子の三人暮らし)と鉢合わせた。買い物袋を両手に提げている。ポリ袋の底から豆腐の白が透けて見える。街市で話しかけられたのは豚肉の値段についてで、あなたが日本語で返したら広東語と英語が半々で来た。袋を持つよう手振りで示される。 ドアは金属製で、鍵が三つついている。内側に入ると油と生姜の気配がある。台所は左手に折れた先にある。冷蔵庫がドア幅いっぱいに立っている。上に弁当箱の積み重ねと、ポリ袋が挟まっている。 電磁調理器が二口。右のコンロの上には鍋が乗っている。ステンレスの鍋で、底に水が少し残っている。シンクの横、白いプラスチックのまな板に、豚のひき肉のかたまりが置いてある。庖丁の柄が木製で、根元が黒ずんでいる。 陳さんの夫が居間でテレビを見ている。音量が大きい。広東語のニュース番組で、アナウンサーの声が台所まで届く。ベランダから外の通りの音も来る。バイクのエンジン、どこかの金属の摩擦。 陳さんは冷蔵庫から梅干菜の入ったタッパーを取り出す。蓋を開けると、濃い発酵の気配が台所に広がる。黒褐色の乾物で、すでに水で戻してある。手で軽く絞り、まな板に移す。包丁がリズミカルに当たる音が続く。 豚のひき肉に刻んだ梅干菜を合わせる。そこへ醤油、砂糖、ごま油、生粉(片栗粉)、白胡椒を加えていく。手で混ぜる。指の間から肉が出てくるたびに押し戻す。表面を平らにして陶器の浅い皿に伸ばす。鍋に水を張り、蒸し台を置く。火は強い。 その間に息子が帰宅する。ドアが開く音。「返嚟喇」と言う声だけが聞こえる。居間のテレビの音量が上がる。 蒸気が鍋の縁から出てくる。蓋をする音。ステンレスの蓋が鍋に落ちる音。 十五分ほどして、陳さんが蓋を開ける。立ち上がる白い煙。皿の中央に、黒い梅干菜と白灰色の豚肉の層が均等に沈んでいる。脂が表面に薄く光っている。仕上げに生醤油を数滴たらす。匂いが変わる。 居間の折りたたみテーブルが広げられる。白米の炊飯器がそのまま卓上に来る。息子がコップを三つ並べる。陳さんが皿を持ってくる。 あなたは一番端の椅子に座る。テーブルの下に足が当たる。コップに水が注がれる。皿が中央に置かれる。 ---
今日のふらりごはん

料理名

梅菜蒸肉餅 / 梅干菜入り豚肉蒸し

この料理について

香港の一般家庭で平日の夕食に作られる蒸し料理。白米と組み合わせて食べることを前提に、脂と塩気が強めに設定されている。梅干菜(客家風の塩漬け乾燥野菜)と豚ひき肉を混ぜて皿に広げ、蒸すだけという調理の単純さから、多忙な共働き世帯でも頻繁に作られる。

材料(3〜4人分)

食材分量日本での入手備考
豚ひき肉300gスーパー全般脂身多めが本場に近い
梅干菜(梅菜・メイチョイ)40〜50g(乾燥)富澤商店・業務スーパー・中華食材店・Amazon塩漬け乾燥からし菜。高塩分のものと低塩分のものがあり、塩抜き要確認
生抽(薄口中国醤油)大さじ1KALDI・業務スーパー・中華食材店日本の薄口醤油でも可(風味差あり。下記補足参照)
砂糖小さじ1スーパー全般白砂糖
ごま油小さじ1スーパー全般仕上げ用ではなく混ぜ込み用
生粉(片栗粉)小さじ1〜1.5スーパー全般コーンスターチでも代替可能。肉の結着に使う
白胡椒少々スーパー全般黒胡椒は風味が変わる
大さじ1〜1.5肉を軟らかくする工程で加える
(仕上げ)生抽少々蒸し上がり後に数滴

アレルゲン:大豆(醤油)、ごま(ごま油)。使用する梅干菜の種類によっては小麦を含む製品もあるため、パッケージ要確認。


ソース照合メモ

食材・工程現地語ソース(繁体字)英語ソース日本語ソース判定
豚ひき肉◎(YouTube, Cookpad TW, Yahoo HK)◎(Mrs P's Kitchen系, Greedy Girl Gourmet)◎(Cookpad JP, Hong Kong LEI)必須
梅干菜(乾燥・戻して使用)◎(YouTube「梅菜蒸肉餅」タイトル明記)◎(Mrs P's Kitchen系に言及)◎(日本語レシピサイト複数)必須・核心
生抽(薄口中国醤油)◎(Cookpad TW複数レシピ)必須
砂糖◎(複数レシピに共通)必須
白胡椒◎(Cookpad TW:白胡椒粉の使用明記)必須
生粉(片栗粉)を混ぜ込む◎(Cookpad TW複数、Yahoo HK系)必須(肉餅の食感を決める)
ごま油◎(麻油として複数ソースに登場)必須
蒸す前に肉に水を加える◎(現地語レシピで強調)△(英語圏では言及少ない)◎(日本語レシピに記載あり)必須・現地語ソース優先
蒸し上がり後に生抽を垂らす◎(現地語ソースで言及)地域固有・推奨
蒸し時間15〜20分◎(複数ソースで一致)必須

この料理を成立させる核

  • 梅干菜を使うこと。これが入らなければ「梅菜蒸肉餅」ではない。梅干菜の塩気と発酵した苦みが、豚の脂を引き締める。
  • 片栗粉を肉に混ぜ込むこと。これを省くと蒸した肉がパサつき、滑らかな肉餅の食感にならない。
  • 蒸す前に肉に水を少量加えて混ぜること。現地語レシピで繰り返し指摘される。これで蒸し上がりの肉が柔らかくなる。省くと締まりすぎる。
  • 皿に薄く広げて蒸すこと(「餅」状にする)。厚みが出ると中心に火が通らず、蒸し時間が変わる。2〜2.5cm以内を目安にする。
  • 強火の蒸気で一気に蒸すこと。弱火でじわじわ蒸すと食感と風味が変わる。

作り方

  1. 梅干菜を戻す:梅干菜を水に20〜30分浸けて戻す。高塩分のタイプは水を2〜3回替えて塩を抜く(なめて塩辛すぎないくらいが目安)。水気を手でよく絞り、細かく刻む。
  2. 肉を下ごしらえする:豚ひき肉をボウルに入れ、生抽、砂糖、白胡椒、ごま油、片栗粉を加える。水大さじ1を少しずつ加えながら、手でよく練る。肉が白っぽくなり、手にまとわりつく感触が出るまで混ぜる(2〜3分)。
  3. 梅干菜を合わせる:刻んだ梅干菜を肉に加え、全体に行き渡るよう混ぜる。
  4. 成形する:浅い陶器の皿またはステンレスの皿に肉を移し、厚さ2cm程度に均一に広げる。中央を少し薄くすると均一に火が通りやすい。
  5. 蒸す:蒸し器(または鍋に蒸し台を置いて代用)を強火にかけ、蒸気が立ち上ったら皿を入れる。蓋をして強火で15〜18分蒸す。
  6. 仕上げる:火を止め、蒸し上がった皿に生抽を少量回しかける。そのまま食卓へ。

食べ方

蒸した皿ごとテーブルに出し、白米の上に肉餅と蒸し汁をのせて食べる。蒸し汁が米に染みるのが香港家庭でのスタンダード。箸で崩しながら米と一緒に食べる。おかずは他に一〜二品が一般的。


補足

失敗しやすいポイント

  • 梅干菜の塩抜きが不十分だと全体が塩辛くなりすぎる。使用前に必ずなめて確認する。
  • 蒸気が十分に立ち上る前に皿を入れると、火の通りが不均一になる。蒸気が出てから入れること。
  • 肉の厚みが3cmを超えると中が生になる。15分で厚い場合は竹串を刺して透明な汁が出るか確認する(赤い汁が出る場合は追加加熱)。

代用提案と風味差

  • 梅干菜が入手できない場合:搾菜(ザーサイ、塩抜きしたもの)で代用可能。梅干菜特有の深い発酵の苦みはなくなるが、塩気と食感は近い。
  • 生抽(中国薄口醤油)→ 日本の薄口醤油:旨味の輪郭がやや丸くなる。発酵の複雑さはやや落ちる。日本の醤油を使う場合は砂糖をほんの少し(小さじ1/4)増やすと近くなる。
  • 片栗粉→コーンスターチ:ほぼ同等。食感差はほとんどない。

時短バージョン 梅干菜の戻し工程を省くため、市販の「梅菜扣肉の缶詰」(業務スーパーや中華食材店で入手可)から梅干菜だけ取り出して使う方法がある。ただし缶詰のものはすでに調味されているため、醤油・砂糖の量を減らして調整すること。

翌日の楽しみ方 冷蔵保存した残りは翌朝、そのまま白粥(白いお粥)の上にのせて温めなおす。香港の朝ごはんの食べ方の一つ。

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同じ場所でも、毎回違う家族・違う偶然・違う料理になります。

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